サルベージ短編三本
はぁはぁと興奮を隠す事もせず吐き出される荒い息がエドワードの耳に、心臓に恐怖を植えつけた。
「ま、まて!こっち来るな!!」
「そうはいかない、こんなチャンス滅多に無いじゃないか。」
既に理性や倫理観などかなぐり捨てたロイに犯罪という概念は無い。
乾いた唇をいやらしく舌で潤し、長く骨ばった指先をエドワードに触れんがために差し伸べた。
「ちょっと!よせって人呼ぶぞ!!」
「残念、ここは完全防音なのだよ。」
「てか怖ぇよアンタ!」
「大丈夫、優しくするから…。」
この時点で既に優しくないじゃないかと内心毒づきつつ、エドワードは小さく身を竦め、下がれるだけ後ろに下がった。
どん。
たった三歩で背中は壁についてしまい、もう逃げ場は無い。
何がこんなに彼の心を駆り立ててしまったのか。
過去何度と無く愛を囁かれては来たが、ここまで強引に事を運ぼうとした事など無かったのに。
「なん…で?」
エドワードの疑問符には耳を貸さず、ロイは少女の細い手首を捕まえた。
「なんで?なんでって…理由なんて一つだろう?」
「わかんねぇよ!」
くすりと零れた笑みが、エドワードの全ての動きを封じ込める。
「君があまりにも臭いから…。」
「は?」
「シャンプーの泡で顔まで洗うんじゃない!」
「ちょ…、てめぇ何時から覗いてやがった!!」
「面倒になって脱走して、ここに逃げ込んだら丁度君がシャワールームに入った直後だったんだよ。」
鍵を掛けて一眠りしようと思ったら仮眠室に壮絶な臭気が充満していたから、すぐに君だと判った。
「腕…離せっ!」
「駄目だ、君には一度しっかり教えてやらねばとかねがね思っていたのだから。」
「何を…っ!」
抵抗する力を全て外に流し、簡単に押さえ込まれたエドワードは悔しそうに唇を噛み締める。
確かに口で罵る程にはこの男を嫌っている訳ではなかったのだ。
今日で処女ともお別れなのかと、センチメンタルな気分になった。
ましてや、こんなシュチュエーションで…。
ぐっと腰を抱き寄せられて、そのままシャワールームに押し込まれる。
「やだぁっ!」
「教えてあげるよ、君に…。」
「教えてくんなくていいって!」
「風呂の正しい入り方を。」
「………………はい?」
「勿論、他にも色々と教えてあげるつもりだが…素肌に纏う服が水に濡れて肌に張り付くのも最高に萌えるんだ!どうかね、一石二ちょ…」
直後、東方司令部を巨大な練成光が迸り、建物が見るも無残に形を変えたのにも拘らず、若き司令官だけが瀕死の重傷を負うという、不思議な現象が起こった。
元は軽傷だったのだが、エドワードから事情を聞いたホークアイとシスコンの弟によって止めを刺された結果だと知るものは割と少ない。
終