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葉月しおん
葉月しおん
novelistID. 28858
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英雄、ミッドチルダに降臨す3

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9.動き出す凶王と蒼紅



 研究室の中にはいくつかの培養カプセルが並んでいて、不気味さが際立っている。また、カプセルの下には数字のプレートがある。
 その中に立っているのは、白銀の髪に、鳥の嘴のように長い前髪が特徴で、白と黒を基調とした鎧を身に付けた青年。雪のように真っ白な肌をしていて、華奢な体躯。切れ長の目に鋭い眼光をしている。
 彼が西軍総大将の石田三成である。
 三成は手に持っている刀を強く握り締めながらモニターから映し出される映像を睨みつける。
 映し出されているものはなのは達機動六課と……家康だった。
 怨敵である家康が機動六課と仲良くやっていることが気に食わず、苛立ちを見せる。

「家康め……あんな雑魚どもと手を組むとは……愚かな奴め」
「なるほど……これが三成君と同じ世界から来たという者か……実に面白いことになりそうだ」

 三成の隣に立っている菫色の髪に白衣を着た男性は映像に映っている家康に興味を抱いた。三成は男性を睨んでドスの効いた声で言った。

「スカリエッティ、何の用だ?」

 白衣の男性――スカリエッティことジェイル・スカリエッティは不敵な笑みを浮かべて三成に同盟を申し込む。
 何故貴様が我らと手を組むと三成が尋ねるとスカリエッティは自信満々に「君と私が組めば負けなしだよ?」と言うが、三成はきっぱりと断った。

「何故だね? 君は家康という人を殺すことだけを考えているのかい?」
「当たり前だ! 家康は私を裏切り、秀吉様を討った大罪人だ! 貴様如きに私の憎悪が分かるか!」

 三成の狂気に押されながらもスカリエッティはある提案を思い浮かんだ。それは、スカリエッティも三成達豊臣の協力というものだった。

「では三成君、こうするとしようか? 私が君達豊臣の協力者として、家康という人の抹殺を手伝うというのは」
「ふざけるな! 我ら豊臣が貴様なんかと手を組むか! 返って足手まといになるだけだ!」
「まぁまぁ三成、まずは落ち着け。この男の言の葉に一理あるぞ」

 激昂する三成を宥める声は低く嗄れていて、赤と白の甲冑を身に付け、全身に包帯を巻いた男性のものだった。男性の兜は蝶を模している。また、男性は足が悪いためか神輿に乗り、宙を浮かせている。
 この男性が、三成の親友で西軍参謀の大谷吉継だ。吉継は重い病を患い、そのため皮膚がただれ、肌の色も褐色で白目の部分が反転して黒くなっているのである。

「何故だ刑部。あんな小物と手を組まなくとも、私と貴様でやればいいだろ」

 吉継の声を聞いて少し落ち着いた三成だが、未だにスカリエッティとの同盟はどうやら納得がいかないらしい。

「三成、そう言うな。確かにわれもあの男と同盟を結ぶのは不本意だと思っておる。だが、今はあの男と同盟を結び、徳川の動きを静観するのが得策であろ。今度の敵は徳川だけではないゆえな」
「……それはどういう事だ? 刑部」
「今の徳川は機動六課という娘どもがいる管理局の者と共にしているようだ。それゆえ、われらも徳川と機動六課に備え、戦力を蓄えねばならぬのよ」

 今度の敵は家康だけではなく、なのは達機動六課もいるため、こちらの戦力を蓄えなければならないと吉継は三成に今の家康達の状況を伝えた。
 だからこそ今ここでスカリエッティと手を組んで、しばらくの間家康達の様子を見て、戦力を蓄えなければならないのだ。
 三成は今現在の西軍の勢力を見て、まだ不足していることに気づく。三成、吉継、スカリエッティの三人のみだ。だが、培養カプセルの中に入っているもの――体つきは女性で、もう間もなく誕生する戦闘機人『ナンバーズ』も彼らの戦力として参戦するのだ。

「また、長曾我部、毛利、黒田も、もう間もなくこのミッドチルダに来るであろうなァ」

 吉継がぽつりと呟き、西軍の軍勢の名前を出し、もうすぐ彼らもミッドチルダに来ると言う。

「あの三成君を静かにさせるとは……さすが大谷殿、といったところだねぇ」
「いやなに、苛烈な三成を宥めるのは大変なことよ。まァ、これしきのこと慣れよ、ナレ」

 吉継はヒヒッと引きずったような笑い声を出して皮肉じみた言葉を紡ぎながら、視線を三成に向けるも、三成は黙り込んだままそっぽを向いた。吉継は体ごとスカリエッティに向けて今の状況を伝えた。

「今頃は伊達、真田、前田といった強者がこのミッドチルダのどこかに降りやる頃であろ。われらの世界の武士(もののふ)を集結させ、新たな『時代』を『始める』のよ」

 吉継は意味深の言葉を聞いた三成は怪訝な表情をしながらちらりと視線を吉継に向ける。始める? 新たな「時代」を?
 彼の言葉の意味は一体どういうことだろうかと深く考え込む。

「三成よ、そう深く考えるな。いずれぬしにもわれらの計画が分かる時期が来よう」
「……計画だか同盟だか知らんが、貴様の好きにしろ……」

 そう言った三成は踵を返して静かに研究室に向かって退室した。
 スカリエッティと吉継は退室する三成を見送った後、不気味な笑い声を高らかに上げた。

「ヒヒヒッ! どうやら三成も納得したようだ。これからわれらの計画も動き出すであろ」
「あぁ、これからだ。これからが新たな『聖戦』の始まりだ!」

 これから計画が動き出す。これから新たな『聖戦』が始まると、普段の時よりも高めのテンションと声色で淡々と言葉を紡いだ。
 こうして二人は研究室の中で不気味な笑い声を上げて、響かせるのであった――