居心地のよい場所
こうして、シャアの元に行く事を決心したアムロ。
だが、地球連邦政府がこの件に関して諸手を上げて喜ぶ筈もなく、『反逆罪だ』『脱走兵だ』と、声高に叫ぶ者たちの働きかけにより、アムロの身柄は拘束されてしまった。
その情報を受け取ったブライトやカイを始めとするアムロを擁護する者達は、即刻行動を起こした。
一年戦争後の軟禁と言う名の幽閉。
あの時の苦渋を二度とアムロ一人に被せるなと、絶対に二の舞を踏ませまいと、強く心に誓う者達の行動は、鬼気迫るものがあった。
もちろんシャアもその一人だ。
ネオジオンからも多岐に渡る数々の交渉を連邦にし、同時に民意を味方につけるために情報操作も行った。
拘束から一ヶ月も経たないうちに、監視の目はあるもののアムロの身柄は解放された。
尚且つ、ネオジオン移籍についても、ほぼ確定しつつあった。
しかし、最大の難関が彼らの前に立ちはだかる。
移籍の条件として連邦側が最後まで譲らなかったのが『MS関連業務の禁止』だった。
パイロットとしてはもちろんの事、整備・開発の全てに関して携わる事を否としたのだ。
もちろんシャアがその様な条件をのむ筈も無く、誰もが交渉の長期化を予想していた。
すると、当事者であるアムロが単身、連邦本部に出向き、その条件をのむと告げてしまった。
本人があまりにもあっさりと条件を認めたためか、連邦高官達は慾が出てしまう。
その場で更にあれこれと要求を膨らませようと、つまらない事項にまで口を出し始めるありさま。
それを最初は黙って聞いていたアムロだったが、おもむろに持っていた書類を高官達の前に叩きつけた。
「いい加減にしろよ。俺がのむのはMSに関してだけだ。いつまでもぐだぐだ言ってないで即日決済しろ。さもなくば、コイツを地球圏全てに向けて公表するぞ」
と啖呵を切った。
アムロが出したその資料は、NT研究所に関するものだった。
アムロのみならず、強化人間と言われる人々の分まで詳細に記された実験内容。
研究と言う名の元に行われた、非人道的な実験を行った様子が事細かに記されている。
これらを表に出しては、連邦の威厳など瓦解するのは明白。
高官達は押し黙ってしまう以外、方法が無かった。
殆ど脅しと言っていい取引ではあったが、この日、ようやくアムロのネオジオン移籍が即決された。
後に、ナナイから
「あのような資料があるのなら、もっと優位に交渉を進められましたのに」
と、溜め息混じりに問われると、アムロは
「アレは今も研究所にいる人々の為に残す予定だったんです。本当は自分のために使うつもりは無かった。でもね、もぅ嫌気が差してしまってね」
顔を歪めて苦笑いを浮かべるアムロに、ナナイはそれ以上何も言わなかった。
その後も『アムロのMS関連業務の禁止』を解除するべく、ナナイが粘り強く交渉に当たっていた。この件はネオジオン最大の懸案事項に掲げられ、日々交渉材料を模索し、協議は続けられている。
最初はMS開発のみならばお互いの技術革新のために役立つとして、例外的な処置を進めた。続いて、整備は開発のためにも必要不可欠の条件だとして、これも認められる方向となった。
徐々に禁止項目の解約を進めるネオジオンに対して、最後である『MS搭乗禁止』に関してだけは、連邦は頑として首を縦に振らなかった。
今回、総帥自らが出向いた会見の議題は色々とあった。
しかし、彼が最重要点としていたのはアムロに関しての事だったのだが、未だにのらりくらりと話題を逸らす高官達によって、残念ながら今回も進展が無いまま終了したのだ。
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