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一之瀬 優斗
一之瀬 優斗
novelistID. 28513
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祈り。

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2.
「あ」
つい声に出したら、細い背中が振り返って、同じく「あ」と言った。「潑春さん!」
校門を出たところで足を止めて、ゆっくりと追いついてくる潑春を待ちながら、透は笑顔で首をかしげる。
「いまお帰りですか?」
「今オカエリです。ひとり?由希と夾は?」
「由希君は生徒会の集まりがあるそうです。夾君は、下駄箱の所で先生に連れ去られてしまいました」
「体育祭が近いから?」
的を得た質問に、透が困ったように笑った。
「はい。なんとしてもクラス対抗のバレーに出て欲しいと。夾君は嫌がっているので、今説得され中です」
「で、あんたはこれからスーパーのタイムサービスって感じだ」
てくてくと横を歩く潑春を、驚いて振り仰ぐ。
「良くおわかりになりましたね…!」
「だって、二人ともそれなりに疲れて帰ってくるだろうし、ゴハン作って待っててあげるんでしょ」
「潑春さんは超能力者さんですか」
大真面目に聞いてくるから、潑春も大真面目に返した。
「たまに」
「それはすごいですね‥!!」
いや、あんたがすごいんだけど。
(色んな意味で)
潑春は、頭の中でこっそり呟く。
「今日は何作んの」
「まだ決めてないのですよ。特売コーナーを見て決めようかと」
「へー、堅実」
「台所を預からせて頂いている身としましては、頑張りませんと!」
「本田さん、料理ウマイよね」
「そそそんな!滅相もありません!作るのが好きなだけです。でも、みなさん残さず食べて下さって嬉しいです」
「ウマイから食う。アタリマエ」
「嬉しいです」
頬を染めて照れる彼女をながめ、潑春はいささか感動する。
素直すぎる人間を目の当たりにすると、実際驚くものだ、と思う。
話してて気持ち悪くなる人間は沢山いるけど、彼女は全然そんな感じ、しない。
胸の奥がざわりと鳴かない。
指の先がイライラと震えない。
すごい。
「本田さんさ」
「はい?」
「先生んち、楽しい?」
突然聞かれて、透はきょとんと潑春を見上げた。
横顔でそれを受け止め、じっと返事を待つ。
言葉の意味をそのままに、透は屈託のない笑顔でうなずいた。
「はい。とても楽しいです」
「‥‥そ」
良かった。
優しい空間になってるのかな、あの家。
(…優しい?)
勝手に出てきた単語に、潑春はわずかな失笑を覚えた。
なんだそれ。
あそこに、優しいものなんて、なにひとつあるはずがない。
だってきっとこれはつかの間の。細い細い糸。張り詰めて。
いつ終りが来てもおかしくないのに。
「潑春さん?」
黙ってしまった潑春を、心配そうに彼女が見上げる。
「本田さんはさ」
「はい」
「由希のこと。最初、どう思った?」
先ほどから脈絡のない質問ばかりされている透であったが、どうしたのかと問い返すことはしなかった。
「最初、ですか?」
「そう。まだ一緒に暮らすとかの全然前。同じクラスになった時、とか」
「ええと、ですね‥」
透は眉根を寄せて、記憶の糸をたぐりよせる。
「綺麗な方だなあと思いました。落ち着いててしっかりなさってて、人気があって」
「‥ふうん」
潑春はガッカリして、気の抜けた返事しか出来なかった。
なんだ、そうなの。
そういうとこ、普通目線なんだ。だまされてたんだ。
なんだ。そうなの。
「‥でも」
潑春の反応に気づかず、透は言葉をつなげた。
「でも、あまり楽しそうには見えませんでした。こんなことを言ったら失礼かもしれませんが、みなさんが周りにいらっしゃっても嬉しそうではなくて…」
透は俯いて小さく呟いた。
「なんだか、淋しそうでした」
「………」
潑春は思わず足を止めて、透を見た。
透も立ち止まって、潑春を見上げ、そして微笑んだ。
「でも、今はとても楽しそうにしていらして、今の由希君は、前よりももっとずっと、お綺麗です」
潑春はしばらく黙って透を見つめた後、ふんわりと笑った。
「そう。由希はキレイ。だよね」
「はい!」
ああ、この、胸の奥がじんわりと温かい感じは、すごく良い。
本田さんは、すごく良い。
ねえ、由希。
幸せになれる入口が、ここにあるよ。
由希は今、幸せの傍にいるよ。
俺はそれが、すごくすごく嬉しい。
唇に宿った笑みを見て、透は優しく眼を細めた。
「潑春さんも綺麗です。由希君と同じ位、綺麗です」
言われて潑春は、キョトンと眼を見張り、そして吹き出した。
再び歩き出しながら首を振る。
「違うよ。全然」
「綺麗です!潑春さんは、心が暖かくて、優しくて、すごく綺麗です!」
「…すごいなあ。本田さんって」
「え?」
「本田さんは、由希の味方?」
透はすぐに力いっぱいうなづいた。
「もちろんです!」
「俺も、そう」
「では、同志ですね!」
「そう。同志」
潑春は首を傾げて透を見た。
「しょうが焼きが良いと思う。疲れにはビタミンB1がいい。ブタ肉」
目的地であるスーパーマーケットが目の前にあった。
「あ!そうですね!お二人とも疲れて帰っていらっしゃいますし!きっと紫呉さんも」
「締め切り。もうすぐ?」
「はい…」
気の毒そうに肩を落とす透をうながして、スーパーの自動ドアをくぐる。
「特売」
「…そうです!特売!」
「カゴは俺が持つから。レッツ特売」
「ありがとうございます!それではいざです!!」
作品名:祈り。 作家名:一之瀬 優斗