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Sweets

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そう素直に告白すると 、(ああ、僕はやっちゃったよ)という表情でハリーは顔をしかめてみせる。

「どうすればいいと思う?」
助けを求めるようにめがね越しに、スレンダーで見目麗しい恋人に尋ねてみたりしたけれど、ドラコときたら紅茶を飲みつつ、面白そうにジロジロと舐めるように観察するだけだ。

「へぇー……。太ったんだ。そうなんだ。……ああ、そう言われてみればあごのラインがふっくらしてきているかな……」
「ええっ?あごなの!もしかしてキョーフの二重あごとか?」
「いや、そこまではいってないけど――」
カチャリと小さく音を立てつつ、ソーサーにカップを戻しながら苦笑する。
それを相手は別の意味に取ったらしい。
「もう笑っちゃうほど、太っているの、僕は?!」
「そんなことはないさ」
あっさり否定しても、相手は疑心暗鬼だ。

「ああだから出張なんか行きたくなかったのに。仕事はハードだし、君に会えないから毎日つまらないし、夜は友人もいないから飲みにも行けなくて部屋に一人きりだし、食事だけはたっぷり出るから寂しいのと、残すのがもったいないから全部平らげたら、こんなになっちゃんたんだよ」
「もー、死にたい!」と嘆きつつテーブルに突っ伏した。
ドラコは笑いながらやさしくその背中をさする。
「そんなこと言うなよ。僕が悲しむだろ」
背中を撫でられるのが案外気持ちよかったのか、そのままの姿勢で愚痴をこぼし始めた。

「太るとさー、着る服が合わなくなるし、見た目も悪くなるし、地下鉄の階段で息切れはするし、いいことなんか一つもないよ。出張だったから特別手当が出たのに、スポーツジムの入会金に消えてしまうんだ。ああ、せっかく君とちょっとした旅行に行こうと思っていたのに……。この1週間の休暇は、ランニングマシンやダンベルを持ち上げるのに費やさなければないないなんて」
うううう……っと、泣き声を上げる始末だ。
ドラコは困った顔をする。

「出張のあとに休暇が出るなんて知らなかったんだ。もう少し早く教えてくれれば都合をつけて、仕事を休むことも出来たけど―――」
残念そうな声に顔を上げると、「君は悪くない」と首を振った。

「悪いのはスケジュールをちゃんと事前に教えなかった会社だ。帰ってきた途端、ポンと一週間の休暇をいきなり与えられて、いったいどうしろっていうんだよ。突然だし、こんな9月のど真ん中の時期に休暇なんて、みんな会社で働いているのに、付き合ってくれるヤツなんかいやしない」
はぁーっとため息をつく。

「ごめん」とつられたように謝ると、「ドラコは悪くないって」とささやいて、テーブルの上だというのに手を握ってきた。
「君に連絡したらすぐにやってきてくれて、そのまま泊まってくれたし……。週末だったから予定とか入っていたんだろ?」
「―――ああ、下らないパーティーが3つ4つね。あとはゲートボールの集いに、レース編みとおしゃべりの会に、好きな子を告白し合うパジャマパーティーとかな」
くすくすとハリーは、自分を元気づけようとするドラコの、気のきいた冗談にやっと笑顔を見せる。
そしてそのまま腕時計に視線を落として、「そろそろ出ようか」と立ち上がった。

会計を済ませるためにキャッシャーの前に向いつつ、「先に行ってていいよ」声をかける。
頷きドラコは緑の木製のドアから出て外で待つことにした。
並んで支払いを済ませるのを眺めるのはスマートではないし、自分が払おうにもマグルのお金など持っていなかった。

いつもこちらの世界に来ると、全部ハリーのおごりなってしまう。
「悪いから折半するよ」と言ったこともあったけれど、「僕がそっちへ行ったときに奢ってくれたらいいから」と断ってきた。
お金のことをいちいち言うのも白けるし、顔を突き合わせて、指を折りながら割り勘の計算をするよりもずっとすることがふたりにはあるはずだ。

いろいろ大人なんだし……。

今ではこちらの世界に来たらハリーにすべておまかせというのが暗黙のルールだ。
そちらのほうがすべてのことを細かく考えすぎて、全てをダメにしてしまうドラコには好都合だし、ハリーはハリーで自分がリードできて気分がいいらしい。
たまに魔法界に戻ってときは、絢爛豪華なドラコの悪乗りしすぎる接待に、ハリーは笑いながらあわせて、ふたりして笑い転げているという始末だ。

店の古い石壁の半分を覆うように広がっている、見事なツル薔薇を見上げていると、少ししてハリーがドア出てくる。
「まだ列車の出発には時間があるから、少し歩こうか」
暑さもかなり和らいで、心地のいい夕方の風が吹いていた。
「近くに公園があるんだ」
言いつつまたドラコの手を握ってきて、肩を並べて歩き続ける。

寒いわけでもないし、大の大人が二人で、しかも男同士で手をつなぐというのはどもう居心地が悪い。
いくら人通りがまばらな道だとしてもだ。

ドラコがさりげなくその手から指を抜こうとした途端、逆にぎゅっと強く握られてしまった。
「ハリー……」
困った声を出しても、相手は知らん振りを決め込む。

「別にいいだろ。お互い忙しいからまた次はいつ会えるのか分からないし、もう君はあっちの世界に帰っちゃうんだから。そんなに手を握られるのが嫌なら今度は腕を組むよ」
ボソボソと呟いてあとは黙り込んでしまった。
ドラコはふぅとため息をついて、そのまま好きなようにさせておくことにした。
どちらにしてもこちらの世界に来たら、相手のルールに合わせるようにしていたからだ。
難しいことを考えるのは仕事のときだけでいい。

あまり大きくはない公園にたどり着くと、木陰のベンチへとふたりして座り込んだ。
秋風に近くなったそれが、互いの髪を揺らした。
そのまま座り続けているとふいにあちこちの木々から、リスが顔を出し始めた。

「ここのリスは結構人懐っこいんだよ」
座っているふたりの前に何匹かワラワラと近寄ってくる。
えさをねだるように二本足で立つ姿が愛くるしい。
「魔法界にもいるけど、こんなにも人なれしていないからね」
ハリーはポケットに手を突っ込んで中のものをドラコの手に渡す。
ナッツがたくさん入ったクッキーだ。

それを敏感に感じ取ったのか、食い意地のはった一匹がドラコのズボンのすそに前足をかけたかと思うと、布を伝って上へと登ってこようとする。
慌ててドラコは立ち上がると、リスはふわっと舞うように地面に降りた。
しかし何匹もが回りを取り囲むようにじりじりと迫ってくる。
ドラコは押されるように数歩後ろに下がった。
その焦っている姿に笑いながらハリーはアドバイスする。
「持っているクッキーだよ。それを小さくちぎってあげてみて」

びっくりした顔のまま頷いて、小さく割るとかけらを下に落としてみると途端に一匹がそれに飛びついて、前足で掴みカリカリと食べ始めた。
ほかのリスもそれを横取りしようとして、小さな諍いが起こり始めたのを見て、慌ててクッキーを割り何個もそれを地面にバラ撒いた。
小さなふっさりとした尻尾のリスが何匹も自分のまわりでほほを膨らませて、クッキーを食べているのがとてもかわいくて、自然と笑みが浮かんでしまう。
作品名:Sweets 作家名:sabure