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Sweets

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手になくなるとまたドラコを見上げてくるのだ、その愛くるしいクリクリとした黒い瞳で。

ドラコはご機嫌な表情で振り向くと、ハリーはポケットの紙袋をそのまま渡す。
受け取って屈みこみ愛嬌たっぷりのリスに近づこうとする相手に、「あまり近づかないほうがいいよ」と釘をさす。
「歯が鋭いから噛まれるよ。直接クッキーを手渡ししたらダメだよ。見るのは別にいいけど……」
それだけ言うとベンチに腰掛けたまま、リスに餌をやるドラコを笑いながら目を細めて見ているだけだ。

姿は見えないが、近いところで子どもたちのボールを蹴るような音と笑い声が響いてくる。
どこかの家から夕食を作っているいいにおいが漂ってきた。
平和な日曜日の夕暮れという風情だ。

いっしょに暮らしたいなと何度も思ったことがあったけれど、一度もそれを口に出したことはない。
育ち方から現在の暮らしまでふたりは全く異なった生活をしているし、もしいっしょに暮らすとしたら、仕事の面でも、生活の面でも、かなりどちらも譲歩しなければならない。
大きな負担がいつの間にか大きな亀裂になって、それが原因でしっくりゆかず別れる原因になるかもしれないからだ。
やはり時々こうして会っていっしょに過ごすのが、一番いい最善の方法だと思う。
しかし頭では分かっていながら、好きな相手との別れは寂しくてしんみりしてしまうのは仕方がないことだった。

手に持っている紙袋が空になると、ドラコは満足げな顔で戻ってくる。
「じゃ、行こうか」と立ち上がり、またドラコの手を握って駅へと歩き始めた。
ハリーはとても無口になってしまう。
昨日だったら五月蝿いくらいに両側の店の説明をして、冗談を言って笑ってばかりいたのに、今はしゅんと黙り込んでハリーはただ前を向いて歩き続けた。

そして駅につくと、ドラコのために帰りの切符を買って、見送りにプラットホームまで付いてくるのはいつものことだ。
もう到着していた列車のタラップから中へと入ろうとする相手を引き止める。
「まって、ドラコ。これを列車の中で食べて」
ポケットの中から新しい紙袋を取り出した。
「さっきの喫茶店で買っておいたんだ。君はチョコチップが好きだったから、それにしたんだ。飲み物は冷たいものがいいと思うから、列車の中で買ってね。はい、これももっておいて」
ドラコの手に幾ばくかのお金を握らすと、自分はタラップから降りていく。

ハリーはホームに立ち、ただ笑って手を振るだけだ。別れのキスをすることはなかった。
ハリーは体面を重んじる相手を尊重して、無理強いをしたことは一度だってない。
ドラコはデッキの手すりに寄りかかり、そんな相手をじっと見詰めていた。
ハリーの肩が落ちて、背中が丸くなっている。
少ししょんぼりとした顔で、神経質なほど何度もめがねを上にずり上げる行為を繰り返していた。
笑みを浮かべようとして失敗したのか、口元が少しがピクピクと引きつっている。

あんなにもハリーを寂しがらせているのは、この別れのせいだ。
見ている自分の胸の中もザワザワと波立ち始める。
この列車が去ると、ハリーはマグル界に一人ぼっちになってしまう。
確かにこちら側でも友人は多いらしかった。

魔法界は自分から去ったんだとドラコに告げてきた。
「うっとおしくて、窮屈で」とサバサバした口調だったけれど、本音はどうだったのだろう?

魔法界では親友たちもいて、気心の知れた友人も仲間も多かったはずだ。
クィディッチが好きで、箒に乗るのがとても気に入っていたのに、こちらではろくに習った魔法さえ使えずにいる。
勝手に周りから英雄に祭り上げられて、どこへ行っても注目の的で、ジロジロと好奇心たっぷりの人々に囲まれてハリーが暮らしていたことくらい、ドラコにも容易に想像がついた。
自分でも四六時中行動を監視されたらたまったものじゃない。

……本当は魔法界を出て行きたくはなかったのかもしれない。



突然発車のベルが響いてきた。
ハリーは「ドアが閉まるから下がって」と注意を促しながら、別れのために手を振る。
ドラコはたまらず手すりから手を離すと、そのまま勢いのままに相手の胸に飛び込んだ。
後ろでドアが閉まる音がする。

「ドラコ、いったいどうしたの?忘れ物でもした?」
「ああ、忘れ物だ」
そう言って相手の背中に腕を回して抱きついて、クスリと笑う。
背中越しに列車が出発していくのが分かった。

「――何忘れたの?」
訳が分からない相手を見詰めつつ、耳元に顔を寄せて問いかける。
「このあと君はどうするつもりだったんだ?僕が列車で去ったあとは」
意味が飲み込めないままドラコに促されて、呆気にとられた表情でぼんやりとハリーは答えていく。

「部屋に帰って、散らかったものを掃除して掃除機をかけて、ビールを飲みながらテレビのサッカー観戦を見るつもりだった。そのまま不貞腐れて一人で寝て、起きたらスポーツジムに行く前に自分の全裸の写真を撮ろうかと思っていたんだ」
「クッ……!何でヌード写真をセルフで撮るんだよ。君は僕にナイショでそんな隠れた趣味もあったのか?」
「ちがうよ。趣味じゃなくて、証拠写真。今ちょっと太っているだろ?だから今の写真と、ジムに通って痩せて引き締まった写真も撮ろうかと思って」
「なんでそんなことするんだ?」
「みんなに見せるネタ。パブで酒のついでの笑い話に丁度いいかなって思って。ああもちろん、ちゃんと水着かバストショットの写真にするつもりだから……」
などと、ちくはぐでどうでもいい言い訳をしてきて、余計にドラコをご機嫌にさせた。

相手の鼻に自分の鼻をこすりつけながら、再び尋ねる。
「――だったら……、もし僕が一週間いっしょだったらどうするんだ?」
「もちろん旅行へ行くよ。そのための臨時収入なんだし」
「僕は自動車に乗ってみたい。海の見えるところへ行ってみたい」
「そうなんだ……。だったらウェールズを目指すのがいいかな。ケルトの特色が色濃く残っている土地だから、魔法族の君も興味があると思うし。飛び込みで気が向いた土地のB&Bやファームハウスを泊まっていけば、きっと珍しいし楽しいと思うけど……」

そのときになって「んっ?」という感じで、やっと気付いたように目をしばたかせた。
「―――ええっ!どういう意味?ただの忘れ物を取りに列車を降りたんじゃないの、ドラコは?!」
「ほんとニブイなぁー、僕の恋人は。そーとーニブすぎる」
ドラコがニヤニヤ笑う。

「仕事はどうするんだよ?」
「休む。適当に風邪引いたことにしておくよ」
「君がそんないい加減なことするなんて……」
「いつもは地味で真面目に働いているんだ。だからたまにはいいだろ?」
「それって、そのあとが大変なんじゃないの?」
「ああ、きっと一週間も休むと机の上は仕事の書類で山積だろうな。それよりも僕は君のウエイトのほうが心配だ。一週間君に張り付いて、朝食を多く食べないように注意したり、そここで名物のアイスやケーキをぱくつかないように見張ろうかと思って。君が元に戻るように僕も協力するよ」

「まったく……。そんなことして本当にいいの?」
ドラコは当然そうに頷いて、自ら顔を寄せてキスをする。
作品名:Sweets 作家名:sabure