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【静帝】シズミカサイロク【サンプル】

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 池袋のど真ん中でチラシに足を滑らせて転ぶなど、こんな恥ずかしいことは無い。転んで膝をつくまでの時間の流れは一呼吸あるかないかの短い時間ではあったのに、周囲からは気遣わしげな視線を感じた。
 その視線に恥じ入った帝人が急いで立ち上がろうとすると、今度は後ろからやって来た衝撃にもう一度、地面に手をつく羽目になってしまった。
「あっぶねえなっ!!」
「す、すみませんっ」
 そんな風に怒鳴られて、すぐ後ろを歩いていた人間が帝人に躓いてしまったのだと気がつく。
 背中を強打された衝撃と再度、膝をついた時に走った痛みに驚きながらも、強い口調で責められたことに動揺して、帝人はぶつかった人間に対して気遣わしげに顔を上げた。
 少し体勢を崩した格好で帝人を跨ぐ様に目の前に立っていたのは、今しがた思い出していたバーテン服の男だった。見上げた先で帝人を睨めつける静雄と視線が絡んで、帝人は思わず息をのんだ。その視線は、見るだけで呼吸を止めてしまうほどの力があった。
「静雄?大丈夫か?」
「すんません、トムさん。なんかこいつとぶつかっちまって……」
「おまえも大丈夫か?なに?転んだの?」
 静雄の同僚らしい男がぶつかった二人の間に立って、静雄の苛立ちを抑えるように、そして帝人を安心させるように声をかけた。男の気遣わしげな態度に帝人も睨まれて止まってしまっていた呼吸を再開し、ほっと息を吐いた。
「す、すみません。このチラシに足とられちゃって……」
 帝人の足元には『露西亜寿司』と書かれたチラシが、十数枚バラバラと散らばっていた。通行人がサイモンから受け取ったチラシを道に捨てて、それが風などによって歩道と車道の段差に集まっていた。帝人はそれを踏みつけて転んだのだ。
「露西亜寿司のチラシじゃねえか。こんなところにばらまきやがって、サイモンのやつ……」
「片付けねえとあぶねえなあ」
 静雄の怒りの矛先が、帝人から帝人の転ぶ原因を作ったサイモンに移ったのはわかったが、それはそれでサイモンに悪い気がした。さんざん友人から注意されていたにも関わらず、ぼんやり街の中を歩いていた帝人にも転んだ原因があることは自覚していた。
「い、いえ、僕がぼうっと歩いていたのがいけなかったので。本当にご迷惑をおかけしました。こ、これから露西亜寿司の前通るので、サイモンに会ったらこれ渡して言っておきますね」
 帝人は大事になる前にと、すばやく足元に散らばったチラシを拾い集めて言った。
「サイモン知ってんのか?」
「え、ええ、友達が知り合いで。よく街でも会いますしね」
 初日に正臣に紹介してもらってから、サイモンは街で会うたびに帝人に声をかけてくれる。暴れる静雄を止めるサイモンの姿を帝人は見たことがあったが、それでもサイモンに全てを押し付けるのも忍びない。
「どうせその辺いるだろ。俺が一言……」
「おいおい、静雄、まだ回収残ってるだろ?……悪いけど、サイモンのこと頼んで良いか?」
「は、はいっ!!」
 剣呑な雰囲気で拳を握る静雄を諌めるように言った同僚の男が、帝人に向かって目配せをした。静雄が暴れださないように男が気を使って動いている意図に気がついて、帝人もすばやく頷き返した。
 同僚と帝人の間で話がついたことで、ピリピリと神経を尖らせていた静雄も少し冷静になったのか、ぶつかってしまったことを申し訳無さそうに帝人を見た。
「オレも足元よく見てなくて……ぶつかって悪かったな。怪我ねえよな?」
 そんな風に静雄の雰囲気が切り替わる様はいっそ清々しさを感じさせるくらいきっぱりとしたもので、帝人は呆気にとられながらも、ぶんぶんと音がなるくらい首を縦に振った。
「大丈夫です。本当にすみませんでした」
「もうボケっと歩くんじゃねえぞ?おまえみたいなやつにぶつかっただけで絡んでくるやつもいるからな」
 そう言って、申し訳なさそうに帝人が下げた頭にぽんと手をのせた静雄が苦笑していることは、今度は帝人にもはっきりとわかった。

   +++

「トム、シズオ、今日ハ人タクサンネ、アイセキ良いカー?」
 本日の露西亜寿司は月に一度の半額日で、仕事終わりの静雄はトムと夕食を食べにやって来ていた。そんな静雄とトムのテーブルにサイモンが顔を出した。
 昼ごろに街中でチラシ配りをするサイモンにあらかじめ店に行く事を伝えていたためか、店に着くと彼が二人分の席を確保していてくれた。
 だが、さすがに夕食時の店内は満席で、外でも人が待っている状態だ。詰めれば六人は座れるテーブルを二人で占領する確かに少し心が痛む。
「あー、まあ仕方ねえけど、こいつと一緒で良いのか?」
 カウンターに静雄が座ると入ってくる客にいらぬ影響を与えるからと、衝立で区切られたテーブル席に二人は通されていた。ぜいたくも言えないかと相席の求めにトムは同意したが、一方でせっかく静雄のために入口や店内から見渡しにくいテーブル席を確保したというのに、わざわざ他人を呼び込むのかとサイモンに尋ねる。
 するとサイモンはトムに答えるのではなく、静雄に顔を向けた。
「シズオ、ケンカ、絶対ダメネ」
「……ったく、だったら飯くらい静かに食わせろよ」
 それまでじっと黙っていた静雄はサイモンにそう注意されて、その理不尽とも当然とも言える発言に悪態をついた。トムはそんな二人のやりとりに一瞬ひやりとしたが、静雄も店の状況には仕方が無いと思っていたからか、わりと素直に同意した。
 サイモンが後手で合図すると、その大きな身体の後ろから相席のために案内された学生グループが現れた。
「そ、そのお、すみません……」
「や、やーっぱ今日は帰るか……?」
「でも今日はせっかく紀田君の……」
 来良学園の制服を着た男女混じった三人組があらわれて、トムは自分の高校時代を振り返り、寿司屋なんか入ったこともなかったなと思い出す。
「半額日とはいえ高校生が寿司屋に来る時代かよ」
 トムと似たようなことを考えていたのか、その心の声を代弁するように静雄がそう口にした。その発言に、学生の一人が肩を縮こまらせてひたすら平謝りをしている。
「す、すす、すみませんっ!今日は友人の誕生日で、もがっ、ぐぐ……っ」
「あーあー、えーっと、やっぱり混んでるみたいなので俺達はおいと……」
「ご一緒させて頂きましょうか」
 と、学生三人が、三者三様に言葉を発する。
「そうそう……って、ええっ!杏里?!何言って……」
「そうだよ。せっかく三十分も待ったんだよ?誕生日に露西亜寿司に行って、大トロでお腹いっぱい満たしたいって言ったの正臣じゃない」
「だからそれはまた今度で……」
「残念だけど、半額日以外は僕と園原さんじゃ予算オーバーになっちゃうから諦めて」
「おいおい、ぶっちゃけだな……」
「本当にすみません……」
「杏里が謝る必要ないぞ。帝人が男らしく『ここの支払いは全部僕が持つよ』なーんて言うこともできない甲斐性なしだからいけないんだ」
「無茶言わないでよ……」