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【静帝】シズミカサイロク【サンプル】

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 突然、目前で繰り広げられ始めた学生達のやり取りがおかしくて、トムは笑い出した。向かいの席では静雄も笑っている。急に相席を頼まれて機嫌が悪いかと思っていたが、この分なら学生達が下手に静雄に絡まなければ心配無いだろうと思った。
「あっと、すみません。うるさくしてしまって……」
 トムと静雄の視線に気がついて、先ほどから一番謝っていた少年、竜ヶ峰帝人がまた申し訳なさそうに頭を下げた。
 その姿に既視感を覚えてトムはあれ、と首を傾げた。
「……おまえ、どっかで会ったことないか?」
「あ、ああ、はい。えーっと、その、先週ですけど、ハンズの前で静雄さんとぶつかったんですが……」
「ああ、露西亜寿司のチラシ踏んづけて転んでたやつか」
 静雄も思い出したのか、奇遇だなと声を掛けた。少年も頭をかきながら挨拶を返している。
「その節はご迷惑を……」
「ああ、良いよ、良いよ。気、使わないで。これもなんかの縁だ。手前の半分どうぞ使って。なに?そっちの彼氏の誕生日なの?」
 おそらく静雄のことをよく知っているのだろう。店を辞そうと声を出していた茶髪の少年、紀田正臣がトムの質問に頭をかいた。
「は、はあ、ええそうなんすけど……」
「特別な食事なら寿司もありだよなあ?ほら、遠慮すんな」
 静雄もトムの言葉にそうっすねと頷いて、少し席を詰めるように壁際に寄った。
「あ、ありがとうございます!」
 そう言って静雄の隣に滑り込んだ帝人に勇気があるなとトムは感心した。静雄のことを知らないのだろうかと思ったが、来良の学生なら知らないわけはないだろうと考え直す。
 現に、さりげなく一緒にいた少女、園原杏里にはトムの方の席を勧めたからだ。もう一人の少年はちゃっかり杏里の隣、静雄から一番遠い場所を陣取っていた。
「正臣は大トロだけで良い?」
「そんなわけあるかっ!寿司屋にきたらまずは白身からに決まってるだろー」
 早速、学生達はメニューを広げて、お絞りで手を拭いたり、お茶をすすったりと忙しくている。
「あーはいはい、うんちくは良いよ。好きなもの食べればいいじゃない。ぼくは普通の握りにする。園原さんはどうする?」
「私はちらし寿司にします」
「あ、ちらし寿司もおいしそうだよね?」
「せっかくだから、少しずつ分けて頂きましょうか」
「良いの?それならそうしようか……他にも何か食べたいものはある?」
「あー、お二人さん。今日の主役は俺ですよね?」
「わかってるって、ちゃんと白身も頼むから」
「お吸い物もいりますよね」
「そうだね。じゃあ、とりあえずそれで……サーイモーン!」
 そんな学生たちのやりとりを邪魔すまいと、大人二人は特に会話することもなく、寿司をつまみながら黙って見ていた。
「本当に席を譲って下さって、ありがとうございました」
 注文し終えると帝人が改まって助かりましたと静雄とトムに頭を下げた。その生真面目さはこの場限りのものというよりは性格なのだろう。少年につられる様に他の二人もありがとうございますと続いた。
「いや、本当に気にしないで良いから……ここにはよく来るのか?サイモンと仲良さそうじゃねえか?」
「え、いいえ、食べに来るとしても月に一度の半額の日だけですね。サイモンとは毎日どこかしらで会いますけど。それに実は今回はチラシの件のお詫びで割引チケット頂いたので……」
 そう言って特別割引券を広げて見せる帝人に、ちゃっかりしているなあ、とトムは苦笑した。
 帝人は、ほかの二人はどうだったのかと向かいに座る二人に尋ねている。
「半額デーか割引券もらった日以外は無理じゃね?大将は中坊だろうが客から容赦なく金とってたしなあ」
「でも月一回だと、その日が楽しみですよね」
 そうやって答える他の二人も悪い感じはしなかった。サイモンも彼らでなければ静雄に相席させようと思わなかったんだろうとトムは考えた。
 しばらくすると、学生たちが注文したとおり大トロだけがいっぱいの皿と握りやちらし、それに吸い物が机に広げられた。
「じゃあ改めて、誕生日おめでとう、正臣」
「おめでとうございます」
「どうも、どうも、紀田正臣、今日で晴れて十六歳になりましたー!」
 お茶で乾杯している学生たちの様子を見る気分は既に老人のようだ。まだ二十代も半ばだというのに十代の学生の若さを見れば、ひどく時代の流れを感じてしまう。
「青春だねえ」
「そうっすね」
「俺が十六の頃はどんなだったかなあ?」
 高校に入学したての頃のことなどもうあまり覚えていないし、彼らのように仲の良かった面々は散り散りになってしまって、もう随分長い間会っていない。
「高校……」
 そう低い声で呟き眉間に皺を寄せる静雄に高校時代の話はタブーだったことをトムは思い出して、慌ててビール瓶を掴むと、静雄にグラスを握らせビールをなみなみと注いだ。
「ああああ、まあ、本当にこの場に居合わせたのも何かの縁だ。なあ、静雄。とにかく、誕生日おめでとう。えーと、紀田君だっけ?」
 トムがグラスを掲げるのにつられるように、静雄もしぶしぶといった様子でグラスを持ち上げて、おめでとさんと一気にそれを煽った。
「なんだかすみません……」
「おまえが言うな」
 祝いの言葉を述べたトムたちに申し訳なさそうに謝ったのは正臣ではなく帝人だった。それに今日の主役がつっこんでいる。そのやりとりには気安さがあって、二人は随分と仲が良さそうに見えた。
 静雄のほうをちらりと窺って、だいぶん眉間の皺を直っていたが、ともかく話題をそらし続けなければとトムは学生達に話をふった。
「えーと、そういえば名前も聞いてなかったけど、君らは何て言うの?」
「僕は竜ヶ峰帝人って言います。来良の一年です」
「園原杏里です」
「俺は田中トム。こっちは平和島静雄」
 知ってると思うけどと苦笑するトムに少年二人は苦笑を返した。杏里と名乗った少女は静雄のことを知らなかったのか、はじめましてと頭を下げた。
「ああ、悪い。せっかく料理が来てるのに手を止めさせて悪かったな」
「いえ、じゃあ、頂きます」
「いっただきまーす。俺の大トロ!」
「白身からじゃなかったの?」
「まあ、まあ、あわてるな。せっかく大トロづくしなんだ。まずは大トロを一口」
「竜ヶ峰君、小皿を。とりわけますね」
「ありがとう、園原さん」
 学生たちが箸を持つと一気にテーブルの上が騒がしくなった。トムがこの年だった頃は一つ一つを味わうというよりは、ともかく何でも口にかきこむような食べ方をしていた。
 だから学生に寿司は贅沢だなんて思ったりするんだろう。彼らのように一つ一つおいしいと感想をあげながら食べる余裕は無かった。
「楽しそうだなあ」
「そうっすね」
 ともかく話題を変えて、ビールを注ぎ、程よい感じに酔わせる作戦が功を奏したのか、静雄はトムの言葉にただただ頷くだけだ。
「あああああっ?!正臣!」
 大事にならなかったとほっと胸を撫で下ろしていたところ、突然隣から聞こえてきた叫び声に驚いて、トムは手酌していたビールを少しこぼしてしまった。
「うわっ?!な、なんだ?」
「す、すみません」
 帝人はトムが自分の叫び声でビールをこぼしたことに気がついて、あわててお手拭を差し出した。