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【静帝】シズミカサイロク【サンプル】

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「玉子食べたくらいで叫ぶなよ。お店のご迷惑になるだろう?」
 友人の慌てぶりにやれやれと肩をすくめる正臣は、最後の大トロを口に入れてもぐもぐと口を動かし続けていた。
「……僕がここの玉子好きだって知ってるくせに、正臣が食べるからだろう?」
「もう一個頼めば良いじゃん。ちょうど俺も次の注文へ行こうと思っていたところだ。ここは俺にまかせとけっ!」
「あー、はいはいはい。わかった、わかったから、もうまかせるから……」
 好物を取られて肩を落とす少年を尻目に、メニューを開いた少年の方はトムにも声をかけた。
「そっちはビールとか良いっすか?」
 テーブルをふさぐ形で座っているから気を使ったのだろう。トムたちにも尋ねる仕草はずいぶん気安い。一応、敬語は使ってはいるが、軽いとも言える。基本的に素直で礼儀正しい人間に対して突っかかることはない静雄だが、とにかくトムは静雄が何をかを言う前にビールを一本と言って彼に空きビンを渡した。
「了解しやした。杏里は何が食べたい?」
「えーと、それじゃあ、何か貝を……」
「貝、貝ねえ。何が残ってるかなっと?サイモンは忙しそうだなあ。ここは大将に直接聞き行くか……せっかくだから、ここは杏里のエロかわいさでたくさんおまけしてもらうぞ大作戦だ」
「なにそれ?」
 空いたお皿を律儀に片付けながら、帝人がこれまた律儀にツッコミをいれるのだ。
「いいから、行くぞおっ、杏里!」
 杏里の手を引っ張って席を飛び出して行ってしまった正臣を見送って、帝人が大きな溜息をついた。
「すみません、本当騒がしくて」
「元気だねえ。随分仲良いみたいだし、中学から同級なのか?」
「いえ、正臣とは幼馴染なんですけど、彼は小学校の時に転校して行って。その後、彼に誘われて一緒に来良に進学したんです。園原さんは高校からです」
 小学生の時に転校して行った友達に誘われて同じ高校を選ぶというのだから、相当仲が良かったのだろう。
「で、杏里ちゃんはどっちの彼女なの?」
「え、いえ、園原さんは彼女とかでは……」
 トムの質問に帝人は首まで一気に赤くして横に振った。
「でもいずれはって思ってるんだろ?杏里ちゃん可愛いもんなあ?」
「そ、そそ、そんなことは……」
 トムがからかうと顔を真っ赤するところなど高校生らしくて可愛げがあって良い。おそらくもう一人の少年の方はこうも純な反応は見せないだろう。
「青春だねえ……でも、まあ学生時代の友情ってのは大人になっても続くもんだし、仲良いってことは良いことだよな」
 そんなことを話していると、そっと静雄を窺っていた帝人がおそるおそる質問した。
「静雄さんとセルティさんも高校のときから仲良いんですよね」
「は?おまえセルティ知ってんのか?」
「ええ……前に助けてもらったことがあって」
 それ以来メル友なのだと言って笑った帝人に、静雄も、そしてトムも驚いていた。
 セルティと言うのが首無しライダーを指すことをトムは知っている。春先に派手に暴れ回ってから昼間でもおおっぴらにバイクをふかしている姿をよく見かけるが、まさか高校生とメールのやりとりをしているとは、もはや単純に驚きを越して呆れてしまう。
 見ると酔いのせいで眠気に閉じかけていた静雄の瞳もぱっちりと開いていた。
「もしかしておまえダラーズの集会にいたのか?」
「そうなんですけど……あっ、このことは正臣達には内緒にして下さい。危ないことに関わってるんじゃないかって心配させたくないんで……」
「ったく。じゃあカラーギャングに関わるなんてやめとけ。お前みたいな奴が関わるようなもんじゃねえだろ」
 酔っ払っているのかと思いきや、静雄は真面目に高校生にむかって説教めいたことを言い始めた。言われた方も静雄の真剣な面持ちに困った顔をしていた。
「僕もはじめは興味本位だったんでけど、でもダラーズのおかげでセルティさんのような人たちとも知り合えましたし」
「……部活のノリかよ?」
 そんなトムの所感へ、確かにそんな感じかもしれないですねと言って頬をかく少年に、静雄がはあと大きくため息をついた。
「ったく、ホントに危ないことには関わるんじゃねえぞ?」
「心配して下さってありがとうございます」
 そう言って、帝人がにっこりと笑うのは若さや無知故のものか、そもそも剛胆な性格なのかトムにも静雄にもわからず、それ以上の忠告の言葉もみつからなかった。生真面目で、率先してカラーギャングなどに関わるような人間には見えなかったからなおさらだ。
 そこへ、おまたせしましたと両手に皿を抱えて注文に行っていた学生二人が戻ってきて、ダラーズと都市伝説の話はそれきりになってしまった。
「まーさーおーみー、何なのこれは?」
「だから玉子の握りだけど?」
「一貫で良いだろ?こんな皿いっぱい頼んでどうするんだよっ?!」
 少年が持ってきた皿の上には玉子の握りが十貫は載っていた。
「まあまあ良いじゃん。帝人が全部食べるんだから。杏里と俺は穴子に赤貝、うに、いくら」
 玉子の握りが山盛りになった皿を二人の間でおしつけあいながら争っている二人を、杏里が私も食べますからと必至に仲裁している。
 仕方がないと、とりあえず目の前に置かれた皿から玉子の握りをひとつ口にして、帝人は盛大な溜息をついた。
「もっとおいしそうに食べろよなあ」
「誰のせいだよ、誰の?!」
 彼らなりのじゃれ合いの一環だとはわかっても、山盛りの握りを見てしまうと確かにため息もつきたくなる。帝人の言葉に確かにそうだなとトムは思っていたが、それ以上に隣で静雄がじっと文句を言う帝人の方を見ているのが気になっていた。
 帝人も静雄の視線に気がついたらしく、何だろうかと黒目がちな瞳で恐る恐る静雄を見上げた。もしかしたら中途半端になってしまったダラーズの話が気になっているのだろうか、とトムは思ったが、当の帝人はまったく別のことを静雄に尋ねた。
「もしかして静雄さん、玉子好きなんですか?」
 そんな風に静雄に聞いた帝人をトムは驚いて見ていた。驚いていたのはトムだけでなく静雄も一緒だったようだ。確かに静雄が見ていたのは帝人ではなく、帝人の手元にある玉子の握りだった。
「良かったら、静雄さんも食べてくれませんか?」
「……良いのか?」
「お嫌いでなければぜひ食べて下さい。この量じゃ一人では食べ切れないので」
 にこりと笑って皿を差し出す少年に、トムは勇気があるなあとまた感心してしまった。ほとんど初対面に近い状態で静雄の事もよく知らないと言うのに、静雄を怒らせたらどうしようかと思わないのだろうかと。
 彼の隣に座っている正臣など帝人の行動を目の当たりにして顔色を変えてハラハラしているのが目に見えてわかる。心配されている当人は友人の動揺を知ってか知らずか、大きなのをどうぞと静雄に皿を差し出して笑っているのだ。
「代わりになんかやるよ。何か食いたいものあるか?」
「え、良いですよ。代わりなんて別に……」
「学生にもらいっ放しじゃ、こっちが気使うだろ?」
「えと、じゃあ、小鉢の数の子もらっても良いですか?」
「そんなもんで良いのか?」
「え、だめですか?お正月くらいしか食べられないし、好きなんですけど……?」