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【静帝】シズミカサイロク【サンプル】

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「まあ好きなら良いんだけどよ……」
 静雄は小鉢ごと帝人に渡すと、自分は帝人が二個三個とすすめる玉子の握りを酒のあてにパクパクと口に放り込んでいく。帝人はといえば小鉢には手をつけず、じっと静雄の食べる様子を何が嬉しいのか笑顔を浮かべて見ており、静雄に食べないのかと促されて、ようやく小鉢に手をつけ始めている。
 本当に珍しい光景だった。そんな風に機嫌よく静雄が学生と肩を並べて食事をする光景などトムはこれまでもちろん見たことがなかった。
 そこへ忙しそうに店内を行き来していたサイモンが、急須を持って顔を出した。テーブルの面々は次々にグラスを差し出し、そのたびにサイモンはお茶を注いでいくが、最後にグラスを受け取った帝人に向かって何か思い出したように尋ねた。
「帝人、怪我モウイイネ?大将モ心配シテタヨー?」
 ごほっと口に含んだお茶を咳き込んで、帝人は慌ててサイモンに向かって手を振っている。
「た、大したことないから気にしないで……」
「怪我って背中のやつだろ?」
「え、足じゃ無いんですか?」
 正臣と杏里はなぜサイモンが帝人の怪我のことを知っているのかと不思議そうに首を傾げている。トムはお茶を飲みながら学生達の様子をぼんやりと窺っていた。
「静雄に蹴られた傷ネ」
「ぶほっ!!」
 だが続くサイモンの発言に今度はトムが口に含んでいたお茶を気管に詰まらせた。帝人からわけてもらった玉子の握りをかじっていた静雄も驚いたようにサイモンと帝人を見ていた。
 そんな周りに向かって誤解だと、帝人は必死に首を振っている。
「け、蹴られたわけじゃないから。怪我ってほどじゃないし……あ、ほら、サイモン、お客さん呼んでるよ。ほらっ!!」
 もうこれ以上余計な事を言われても困るとばかりに、帝人は店員を呼ぶ客のテーブルに向かってサイモンの背中を押した。
「完治スルマデ大事ニスルヨ、帝人」
 そう言ってサイモンは他の客のテーブルに去っていった。
「……あの背中のでけーあざ、し……平和島さんにやられたのか?」
 もしかしてと尋ねる友人に向かって帝人は再度、首を振って力いっぱい否定した。
「違うから。転んだだけだって言っただろ……」
 その話を聞いてトムはようやく合点がいった。
「静雄の足があたった時か?」
「もともとは自分で転んだせいですし、青あざになっただけで痛みとかがあったわけじゃないんで……サイモンが誤解させるようなことを言って本当すみません」
 吹っ飛びもしなかったし、躓いただけだとあまり気にもしていなかった。だが躓いたのは静雄なのだ。大事になってないか心配するべきだったと、今更ながらにトムは躓いた当人と一緒になって顔色を変える。
「大丈夫なのか?」
 そう尋ねても大丈夫だと本人は頑なにそれだけしか言わないが、トムがちらりと友人の少年を見ると、彼は微妙に顔を歪めていた。その様子を見てトムもそして静雄も首を振る少年の言葉を鵜呑みには出来なかった。
 すると静雄は帝人の背中に腕を差し入れ、足の当たった付近に触れた。突然刺激を受けて、確かに帝人が身体を強張らせたのを静雄もトムも見ていた。そして静雄はそのまま帝人のシャツを引っ張り出して、めくり上げるという暴挙に出た。
「うわあああっ、ちょ、ちょっと、静雄さんっ!!」
 帝人は恥ずかしさに赤面させて声を上げたが、その表情には若干の焦りも見せていた。
 静雄がシャツをめくり上げると、帝人の背中には確かに青アザを通りこして茶色く変色した大きなアザが出来ていた。背中に四分の一くらいを占めるそのあざは食事時に見るにはショックが大きく、トムも思わず目をそらした。
「……わ、悪かった」
 そう謝りながら、そっとシャツを下ろす静雄の顔色も悪い。
「そ、そんなことないですっ!静雄さんが謝る必要なんて全然無いんですよ。もともと僕がぼーっと歩いていて転んだのが悪いんですし、ぶつかったのも事故です。それにこのアザも見た目は結構アレですけど、本当に痛みとかは無いんです。僕も体育の着替えの時に気がついたくらいで……」
 制服の乱れを直しながら、むしろ転んだ日の晩は膝の打ち身の方がひどく痛んだと帝人は言うが、到底、それが真実だとは思えない。背中のアザはそれだけひどい怪我に見えた。
 サイモンが背中の怪我のことを知っているのだ、露西亜寿司に行った時には痛みなり、何なり症状が出ていたのだろう。
 だがトムは事故ということで収めたいという帝人の意思を汲んで、怪我は大したことがなかったんだということを念押しするように、あえてもう一度問い返した。すると帝人もしっかりと笑って頷いた。
「ほら、本人がそう言ってんだ。おまえも気にするな。次からは互いに歩く時、気をつけりゃ良い」
「……そうします」
 若干、不服そうな顔をしながらも静雄はトムの言葉に頷く。暴力を嫌う静雄は不可抗力とはいえ、少年に怪我を負わせてしまったことを気に病むところがあるのだ。
「あ、お茶いりませんか?おかわりもらってきますね」
 先ほどお茶をもらったばかりだというのに、微妙な雰囲気になってしまった場から逃れるように、帝人がテーブルの上の急須を掴んで席を立った。
「俺が行って来るから、座ってろ」
 帝人は一度立ちあがったが、すぐさま引き止める声に振り返ると有無を言わせぬ眼光に気おされて、静雄と入れ替わるように大人しく席に着いた。
「あの、ありがとうございます」
「おう」
 ぽんと頭を撫でて行く静雄の手に帝人がほうと息を吐いた。静雄の反応を心配して、ひどく緊張していたことが丸わかりだった。
「大丈夫だよ。静雄は別に怒ってねえし、おまえの怪我のことも今は気にしてても、すぐにいつも通りになるさ。あいつ気も短いけどよ、切り替えも早いから」
 そうトムが付け加えると、帝人はもう一度安心するように頷いた。
「静雄さんって、なんていうか、すごく律儀な人なんですね?」
 帝人の怪我のことを気遣って、わざわざお茶をもらいに行ったことなど良い例だった。
「だろ?考え方が古風なやつだから。借りも恩も返さなきゃ気がすまないのさ」
「借りって怪我のことですか?でもそれは……」
「まあ、怪我のこともあるし、玉子のこともあるし、そういうのひっくるめて全部さ」
 トムに対してもそんな風に義理立てしているところが静雄にはあった。
「平和島静雄が義理堅いねえ?まあ、らしいっちゃ、らしいかも」
「でも甘い玉子焼きが好きだなんてなんだか可愛いらしい人ですね」
 露西亜寿司の玉子焼きは甘みが強く、たしかに大人好みというよりは子供に好まれるメニューだった。そんな杏里の発言にみんな抑えきれないというように笑い出した。

   +++

 露西亜寿司で一緒になって以来、帝人は以前にも増して静雄の姿を池袋の街中で見かけるようになった。それは単に静雄の風貌が目立つだけではない。それ以上に帝人が意識して池袋の街中で彼の姿を探すようになったからだった。
「セルティさん!」
『帝人?』
 西池袋にある公園で何事かを話すセルティと静雄を見つけた帝人は迷わず彼らに駆け寄って声を掛けた。
「静雄さん、こんにちは」
「よお」
 挨拶を交わす帝人と静雄に、セルティが驚いてPDAの上に指を滑らせる。