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【静帝】シズミカサイロク【サンプル】

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『お前たちいつのまに知り合いになったんだ?』
「……いろいろあったんだよ」
『いろいろ?』
「今度、話すよ』
『?』
 どういうことだとセルティが帝人に顔を向けたが、帝人も笑ってセルティと静雄を交互に見るだけで質問には答えなかった。何をしてるんですか、と逆に二人に尋ねた。
「いや、こいつが仕事で手こずってるらしくてな」
「仕事?運び屋のですか?」
『今回は探し人をしてるんだ』
「探し人?」
 興味深そうに続きを求める帝人に、巻き込んではまずいと思ったのか、静雄は話を切って、帰れとばかりに帝人に手を振った。
「おまえには関係ないことだ。ほら、もう暗くなるぞ?面倒なやつらに絡まれる前に帰れよ」
 公園の周囲にも、徒党を組んでたむろしている若者たちの姿が見える。そういう輩に絡まれる前に帰れと言って静雄は帝人のでこを指で弾いた。
「いたっ!……痛いですよ、静雄さん」
「あ、わりぃ……」
 静雄にしてみれば大した力も入っていないだろうが、帝人からするとかなり強烈な衝撃が頭に響いたのは確かだ。
 だが、帝人に怪我をさせたことを思い出したのか、静雄が心配して顔色を変えてひどく慌てる様子に、帝人は赤くなっているだろう額を押さえて大したことが無いと手を振った。
「嘘ですよ。そんなに痛くありませんから……むしろ、暗くなる前に帰れだなんて、小学生みたいな扱いに胸が痛みました」
「い、いや、だけどおまえみたいなやつが一番危な、あ、いや……」
 わざとらしく胸を押さえて友人が使うような軽口を真似てみると、静雄は失言だったというようにひどく狼狽した。
 静雄でも失言に慌てたりするのだと、帝人の口から勝手にくすくすと笑い声が漏れた。
「おまえ、喧嘩売ってんのかよ……」
 帝人が自分をからかっていたことに気がついた静雄が、鋭い眼光をぶつけてきて、今度は帝人が顔色を変える番だった。
 睨まれただけで息が止まるくらい萎縮してしまう。
「す、すみません、すみません……」
 先日の一件でちょっとは近づけたのかと思っていた。だが、それはまだ軽口が許されるような関係じゃなかった。自分の勘違いだったのだと帝人はひたすらに頭を下げた。
「……ぷっ、あははははっ!!」
 けれど平謝りをする帝人を見て静雄が笑い出したことで、反対に今度は帝人が静雄にからかわれたことに気がつく。単に平謝りする帝人の姿がおかしく見えただけなのかもしれないが。
 帝人が顔を上げると、そんな静雄をセルティが諌めていた。
『静雄!あんまり帝人をからかうのはやめろ。本気でびびってるじゃないか』
「それはお互い様だ。あんま良い気分じゃねえだろ?これに懲りたら人をからかうんじゃねえぞ?」
 そう言われてしまうと本当に帝人も謝ることしかできない。
 そんなやりとりをしているところでセルティの携帯の着信音が響いた。
「新羅から連絡来たか?」
『だめだ。やっぱりまだ連絡がつかないらしい。怪我した方の男も意識は戻らないって』
 セルティに携帯の画面を見せられて、静雄もふーんと肩を竦めた。
「四木の旦那もめんどくせえこと頼むよな。素人相手にちと頑張りすぎじゃねえ?」
『その分、報酬も良いし、素人相手だから自分達で動かないで、私に話を持ってきたんじゃないか?』
 帝人の知らない人間の話をしているが、『素人相手』ということは、そうではない筋の人たちからの依頼だということだ。それならばたしかに静雄が帝人を話から遠ざけようとするのもわかる。
「ああ、まあな。でも今朝、池袋で見たからってもう違う場所に行っちまってるんじゃねえか?」
『だが、取引場所が池袋なのは間違いないんだ。相手の女のほうはこの街から出てないんだから』
「犯人は犯行現場に戻ってくると踏んでるわけだ。でもブクロって言ったって広いしなあ。今朝、騒ぎがあったのが西口近くだからってここにいるとは限らないし……」
『だが、最後にあの男が目撃されてるのはこの辺りなんだ。日本人じゃないし、外人の数は多いとは言え、欧米人のコミュニティは狭いからサイモンに聞いてあたりをつけてきたんだが……』
 それにしても二人は帝人の存在を忘れたかのように話し続けている。セルティの携帯の画面はよく見えないが、静雄の発言の内容から帝人にもだんだんと話が見えてきた。
「それって、もしかして今朝の西池袋公園での発砲事件の話ですか?」
 地上波ではそれほど大きくは報道されなかったが、今朝からネットの中では池袋で発砲事件というトピックがいくつも上がっているのを帝人も見かけていた。
 発砲といっても使われたのは本物の銃ではなく改造したエアガンで、それによって怪我人が出たわけではないが、その後、公園ではナイフで刺された男が倒れていたのが発見されたというのが大筋の話だった。その男の周辺にエアガンの弾がいくつも転がっており、周辺では発砲音のような音を聞いたという情報が上がっていた。
「だからおまえには関係ない話だって。やべえ話なんだから関わんなって言ってるだろう?」
 いま聞いたことは忘れろ、と静雄は帝人を追い払うように背中を押した。
「協力できるかもしれません」
 だが帝人は静雄の手の届かない少し離れたところからそう言って二人を振り返った。
「すみません。でももしセルティさんがその発砲事件に関わった人を捜してるなら力になれるかもと思って」
『本当か?何か知ってるのか?』
「ええ、そのPDAでネットできますよね?貸してもらえますか?」
『ああ』
 セルティからPDAを受け取ると、帝人はいつもの手順でダラーズのサイトに接続した。そしていくつかの掲示板を開いてセルティに示す。
『ダラーズの掲示板?』
「ええ。ほら、やっぱり、ここから読んでみて下さい」
 そこでは発砲事件があった時間から、断続的に書き込みが行われていた。かなり詳細な目撃情報もあった。最後の書き込みは十五分前で南池袋となっていた。その書き込みを見るとセルティは急いで愛馬にまたがりエンジンを吹かした。
『助かった、帝人。悪いな、静雄』
「いえ、気をつけて下さいね」
「おう、見つかるといいな」
 バイクの上から合図するセルティに手を振り返し、帝人はほっと息をついてよろよろとベンチに座り込んだ。大したこともしていないのに、何だかひどく疲れた気がしたからだ。
 いつの間にか動悸が激しくなっていたのは、帝人にはとうてい及びもつかない世界の話の断片に、少しだけでも関われた興奮のせいだろうか。
「おまえあんなの毎日チェックしてんのか?」
 そう声を掛けられて、自分が静雄と二人きりになってしまったことに気がついた帝人は、それまでとはまた別の意味で内心ひどく動揺した。最初はセルティが一緒にいるのだからと、二人に声を掛けることにためらいはなかったが、さすがにまだ静雄と二人きりだととまどいの方が大きい。
 それでも別に先ほどまでと何かが変わったわけではないと言い聞かせて、帝人は声が震えてしまわないように気をつけて、ゆっくりと話し始めた。
「あの掲示板の管理人みたいなことしてて。顔が見えないと見えないで書き込みが荒れたりするので……」
「ふうん。おまえ、えらいな」