【Alwaysシリーズ 3】 To the dream
「いったい、何?ドラコ?」
「めがねを外すと顔がちがって見えるな。まるで別人だ。意外と……」
「―――意外と、カッコイイとか?」
軽い冗談のように、ハリーはウィンクをした。
「まさか……」
そのずうずうしい答えに、ドラコもつられて笑ってしまう。
「マルフォイの瞳も暗い中じゃあ、とても色が濃くなるんだね。海みたいな青だ……」
逆にハリーの手がのびて、ドラコの目の下を撫でた。
くすぐったくてクスリと上がる笑い声。
まるで子どものような笑顔だ。
本当のドラコの素顔はひどく心地がよかった。
「一人部屋に、暖かいベッドか……。静かだし、羨ましいな」
「そんなことない。いつも眠れなかった。不安で、悪夢ばかり見て……」
「今のこの夢も悪夢なの?」
ドラコは首を振った。
「悪くない。とても気持ちがいい夢だ」
「僕もこの夢はとてもいい夢だと思うよ。結局どっちが見ている夢なんだろうね」
「さぁ……。多分、ハリーが見ている夢だろ、きっと……。僕は楽しい夢なんか見たことがない」
ドラコは寂しそうに笑った。
「……ああどうして僕はいつもひとりぽっちなんだろう――」
ハリーは笑いながら、ドラコの手を握った。
「―――手をつないで寝ればいいよ。きっとどちらの夢だってこれなら寂しくはないからね」
ドラコは笑った。
「これは夢だから、君は優しいんだな……」
ハリーは目を細める。
「僕は別に夢じゃなくても優しいよ。そして君は夢の中だとひどく素直だね、ドラコ……」
「僕はいつだって素直だ」
「お互い様か……」
「意地っ張りなのは」
フフフと見詰め合って、照れたように笑いあった。
握り合った手と手から、自分の世界と、相手の世界が交わって、まるでフラッシュバックのように、その奥の記憶が垣間見える。
どんなにひどくなじられても頭を下げて、その痩せた男の子はじっと耐えていた。
豪華のベッドの隅で雷が鳴っている嵐の夜に、その男の子は一人でブルブルと震えていた。
呼んでも誰も来てはくれない。
「君はあんなに怒られてばかりで、幸せな子どもじゃなかったんだな……」
「ドラコはいつもああやって、広い部屋でポツンと寝ていたの?」
目と目が合い、見詰め合ったほんの一瞬、自分たちの心が深くつながったように感じた。
手を握ったまま、ドラコは満足そうに、そっと目を閉じる。
「―――ドラコ、眠たいの?」
(……ああ、とても眠たいよ。今夜はやっとゆっくりと眠れそうだ……)
朝日のなか、目が覚めた。
ぐっすりと取った睡眠で、ひどく心が軽やかだ。
となりにはもちろん誰もいない。
握った手の感触はあるような、ないような、とても不確かなものだ。
まぶしい光が差し込む天窓を見上げて、ぼんやりとリアルすぎる夢に思いを馳せる。
(――ああ、やはりあれは夢だったんだな……。やけにあのハリーが出しゃばっている夢だったけど……)
ドラコは目を細めて笑った。
(別に夢だっていいさ。それでも、幸せな夢だった……)
今でも自分の右手が、相手の左手に続いているような感じがする。
ドラコは自分の右手をぎゅっと握りしめた。
(むしろ夢のほうがいい。何度でも何度でも、その夢を繰り返し見れるから……)
――あの頃の僕は一人ぽっちで、いつも不安の中に立っていた。
ひとりで生きていかなきゃならないと、頑なに思い込んでいた。
さみしくていつも泣いてばかりいた。
自分は出来損ないで、どうしようもないから、誰からも愛されないんだと思っていた。
──ねぇ、早く気づけばいいのに。
廊下ですれちがうハリーが、左手をぎゅっと握ったまま、ちらっとこちらを見たことに……
何か話しかけたそうな素振りで、立ち去っていく僕の後姿を、じっと見つめていたことに……
作品名:【Alwaysシリーズ 3】 To the dream 作家名:sabure