二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

レイニーデイズ

INDEX|3ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

それ以上言葉が続かなかった。茫然と言葉を失う俺をどう思ったのか、目の前の男は数分間の沈黙を置いていきなり痛いほどの力で持って俺の腕を掴んだ。長身ではあるが、細みな体が持つとは思えない力で、俺は一度だけふわっと地面から浮く。奇妙な浮遊感のあとずいぶん頼りない体が引かれて無理矢理歩かされた。

「な、なに、」
「黙れ。」

男は寡黙に口を噤んで、裏道を俺を引きずるようにして歩いていった。すっかり濡れて肌が透けてしまっているシャツを煩そうに捲り上げながら男は歩く。スラックスの裾はもう泥水で随分汚れて、雨は相変わらず強いままだった。俺は重苦しい沈黙に何もいえず、ただ男の後ろでよたよたとただただ歩かされていると、いつの間にか見知らぬ家まで連れて来れられていた。

「ここは、」

男は俺を無視したまま勝手に階段を上り、引っ張られているせいで無理矢理階段を上らされている俺は呼吸も絶え絶えになりながらぜいぜいと荒い息を吐く。無機質な扉が開き、玄関かな、と俺が認識するまもなくそこに放られて俺はまた芸も無くかはっと咽たような息を吐いた。
男は俺を少しだけ見下ろしてから、律儀にも靴をそろえて脱ぐと、濡れたままの靴下で廊下を荒々しく歩いていった。なんだ、いったいと俺はその後姿を眺めていると、少々何か言い争いをしているような声が部屋の奥から響き、少々の沈黙の後扉を開けて出てきたのは、さっきの男ではなくどこか頼りなさげな柔和な笑顔を浮かべるめがねの男だった。

「取りあえず、傷見せてもらっていい?」

医者なのか、白衣を着た男が傍らに屈みこんで俺にたずねた。視線が男の顔の上を滑る。どこか混濁したままの意識の中で小さく頷くと、細い指が俺のこめかみに触れた。
それから、少しだけ難しい顔をすると、詳しく検査したいから奥に着て欲しいんだけどと眉尻を下げながら言われた。
俺はどうにかして立ちたかったんだけれども、足も体ももう疲れきってしまっていて動こうとすれば馬鹿みたいにがたがたと震えるので、見かねたように男が肩を貸してくれた。礼を言おうと口を開きかけてから、名前を知らないことを思い出す。
俺の心を呼んだかのように、めがねの男は苦笑した。

「私は新羅だよ。臨也。」

新羅、と口の中で繰り返すと、新羅と名乗った青年は困ったように笑った。


作品名:レイニーデイズ 作家名:poco