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レイニーデイズ

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しばらく(いったい自分がいつまでここにいられるのかさっぱり分からないが)この男と共同生活をするのだ。さっきから一言も発しなくなってしまった男の性格くらい、ある程度つかんでおいたほうがこちらも行動しやすい。嫌われているのならなおさら。ひとまずわかっているのは、大雑把な性格をしているということ、料理はあまり得意でなく、わりと無口だということ。少ないなーなんてカフェオレをちびちびとやりながら自分の思考に浸っていると「にがい」、となんだか端的なこえがした。もちろんこの部屋には俺と男しかいないわけで、 その言葉を発したのは男に違いなかった。

「もしかして、ブラック苦手だった?」
「…飲めなくはない」

思わず口に出てしまったことが気になるのか苦味が気になるのか、更に深く寄る皺に人は見かけによらないものだと改めて認識する。一向に減らない中身を見ながら、ふと、男の名前を聞いていないことを思い出した。

「そういえば君の名前、聞いてなかった」
「…言いたくねぇ。」

明確に返事を返される。なぜかと尋ねても男は答えなかった。名前を呼ばれることすら嫌なのだろうか、本当に臨也という男は嫌われているらしい。まあ、こちらは世話になる身だ、余計なことは起こさないに限る。ふうん、と話を流し、カフェオレを口に含んだ。

「手前、やけに落ち着いてるな。」
「なにが?」
「記憶喪失だってのに、不安じゃねぇのか」

男の言葉に、俺は確かに記憶喪失なんてものになってら普通はもっとうろたえるものなのかもしれないな、と考える。けれども、考えるだけだ。自分がだれで、どんな人間で、どうあったかがわからないことが、さして自分を不安にさせる要因にはなり得なかった。大方新羅から聞かされたせいもあるのかもしれない。あとは強い既視感のせいとか。
けれども自分についてわかることもある。料理ができること、それから頭はきっとそんなに悪くないということ。あと、この男に向ける狂気じみた感情とか。意味もなく、不意に男のすべてを壊してしまいたくなる。これはきっと臨也がずっと男に向けていたものだ。まあ、わからないことの方が多いが。

「大して不安じゃないかな。分からないことは多いけど。」
「記憶があろうがなかろうが、相変わらず図太い性格してやがるな。ノミ蟲のくせに。」
「ノミ蟲って、俺のこと?」

あだ名か何か、と聞くと男はすごく嫌そうな顔をした。自分でいっててあだ名はないだろうなとは思ったけど、そんな顔をされる覚えはないと思う。
俺が少々ムッとしていると、男は結局大して飲めなかった珈琲から手を離して眉間にしわを寄せたまま俺を見た。その眉間のしわは俺のせいなのか、それとも珈琲のせいなのか、男を知らない俺にはわからなかった。けれども心のどこか奥の方で、それが俺のせいだったらいいなんてことを思っていた。不思議なことに。

「記憶が戻ったらさっさと出て行けよ。」

それは男の正直な願いなんだろう。分かってるよと男に笑みを返すと、男はさらにむすっと唇を引き結んだ。それまでは世話になりますとそのまま芝居がかった態度で口にすれば、男の顔はますますひどい仏頂面になった。なんだかその顔がひどく面白くて、俺は少しばかり声を立てて笑った。

作品名:レイニーデイズ 作家名:poco