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みんな誰かの愛しい人(虎兎)

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「ったく、TV見てみりゃ真っ青な顔で笑ってやがるから、心配して来てみたら…」
この呆れたような、どこか甘い響きのする言い方に覚えがある。
耳障りのいい、お節介な物言い。
まさか幻聴?
ぼやけた意識で、うっすらと目を開ける。揺れる視界には、いるはずのない人がこちらをじっと見返していた。
「お、目覚ましたか?」
やっぱり夢だと、虎徹の姿を見たバーナビーは思った。だって、そんなことあるはずがない。
「水分とらねぇと脱水症状おこすぞ。飲めるか?」
そんな虎徹の言葉に、バーナビーは一向に起き上がろうとせず、水を含んだ瞳でぼおっとしたまま見返すばかり。すると、
「しょーがねえなあ」
と言い、虎徹がまさに言葉通りにくしゃりとした笑顔を見せた。
そのことに、安堵なのか胸が締め付けられるような気がしてバーナビーは泣きたくなる。
虎徹は反応のないままのバーナビーに諦め、自らがペットボトルを飲み、そのままベッドへ乗り上げる。
「お…じさん?」
「飲めよ?」
飲めというなら、どうしてペットボトルを渡してくれないのだろう。
鈍い頭を働かせそう思うバーナビーだが、塞がれた唇から冷たい水が伝わる。熱いほどの口内が冷やされ、水分が喉を通る。
気持ちいい。
もっと。
もっと欲しい。
バーナビーは声には出せなかったが、すぐにそれを悟った虎徹が「もっとか?」と聞いてくる。その言葉に頷く仕草だけで返すと、二度目の水分補給が与えられる。それがもうキスだとバーナビーの頭はわかっていたが、拒否するような理由が驚くことになかった。
だって、触れられた唇から冷たい水が零れてくる。
もっと。
知らずのうちに舌が伸びて、虎徹の舌がそれを受け止める。
人に触れている安心感。
孤独が埋められていくような。
「ん…ぁ」
合間に零れた自分の声に、やっと本当にバーナビーは事態を把握した。
「おいおい、そんな可愛い声だして俺をどうするつもりだ?」
「……」
「おい?大丈夫か?」
「どうして…」
起き上がり、やっとそれだけ言えた。その後はすぐに咳き込んで、虎徹に優しく背中を撫でられる。
「おいおい、急に声出すな。取りあえずお前は水分補給しろ」
仕方なく言われるままにバーナビーは水を飲む。頭も少しずつはっきりしてくる。
「なんで、ここに…」
「はあ?何でってお前、この状況でいちいち説明するまでもないだろーが」
「それは…、でも今日はあなたは…」
その先を続けることが出来ず、バーナビーはうつむく。今日あれほど浮かれていたのは、大事な娘との夕食だったはずだ。どれだけそれを楽しみにしていたのか、散々聞かされたバーナビーが一番良く知っている。だからこそ、どんな事態になっても虎徹にだけは電話一本するつもりはなかった。
「バーナビー」
いつも呼ばれるニックネームではなくちゃんと名前を呼ばれて、顔を上げないわけにはいかない気がした。上げた先には、真っ直ぐに自分を見つめ返す虎徹がいる。
「お前はまた余計なことをあれこれ考えて、自分を責めたりするんだろうけどな」
虎徹はバーナビーの前髪を優しい仕草でかきあげる。
「お前が一人だって言ったんだ。だから来た。俺はお前のパートナーだからな」
「でも…」
「でももへったくれもねぇよ。可愛い娘とのデートは日を改められる。けど、お前は今苦しいんだから、甘えろよ」
そう言われ、虎徹の前で今にも子供のように泣いてしまいたかったが、そんな風に甘やかされる資格、自分にはない。
「もう十分甘えましたよ、僕は。なのに…」
「そうだな。だから、ちゃんと携帯確認しろ」
携帯?
どうして今、携帯なんて見てどうしようというんだ。
ベッドから降りると床に転がっていた携帯を虎徹が拾い上げ、画面を見てこう言い始めた。
「ちょっと、TV見たけどせっかくのハンサムが台無しになってるじゃない!あれじゃファンが幻滅するわよ。無事なら空メールでいいから返信しなさいよ。じゃ。だってさ」
全然似てもいないのに、わざわざ声色を変えて虎徹が読み上げる。
「もしかしてカリーナ…ですか?」
「もしかしなくてもそうだよ。で、その後、無事お仕事終了ね。偉いわ。添い寝が必要なら、真夜中でもコールしてねって最後のハートマークがすっごい入ってるな…」
もう誰か言われなくたってわかる。
「あと、迷惑じゃないから、頼ってくれってそれだけ。あいつらしいなあ。で、その後もう数えるのも面倒なくらい何度も、心配だ、そして心配だって着てるぜ」
あのトレーニングルームにいた全員が、自分のことを心配して連絡をしてくれていたのだ。
「まったく…お節介な人たちだ…」
まだ素直にはなりきれないかったけど、それが嬉しさを込めた言葉なのは言うまでもない。
「お前は一人じゃない。わかったろ?」
「…来て、くれて、ありがとうございます」
「礼より、早く治せ。お前がそんなんじゃ、心配でしょうがねえ」
どうしてこのお節介な男は、こんなに優しいのか。あんまり優しくされたら、甘えるのに慣れて一人じゃいられなくなる。
「そんなに優しくしないでください」
虎徹の胸元に顔を寄せ、バーナビーが搾り出すような声で呟く。
「優しくされたら、僕は」
「……駄目になったりしねぇよ。そのために俺がいるんだ」
バーナビーが顔を上げると、目じりいっぱいにたまった涙を虎徹は指先ですくう。
「お前が泣きたい時は、こうやって胸を貸してやれるし」
「……」
「眠れない時は傍にいてやる」
「まるで子供扱いじゃないですか」
「しょうがねえだろ。代わりに、俺がまた賠償金作ったらお前は一緒に裁判所に来てくれるんだろ?」
「…そうですね。誰かさんと違って僕のことを待ってるファンもいることだし、早く治さないといけませんね」
「お、調子出てきたな、バニーちゃん」
「風邪、人にうつすと治りが早いそうですよ」
「なんだよ。心配して来てやったのに、俺にうつそうって?」
「黙ってキスなんかするからです」
弱い力で虎徹のネクタイを握り、バーナビーは自分の方へ引き寄せる。
この気持ちが何なのか、まだわからない。
風邪のせいで頭はぼうっとする。
けど、今キスしたいと思った。
それは紛れもなく、素直な気持ち。
もう一度互いに唇を合わせようとした、その時。


「ちょっと……、な、な、何やってんのよおっさん!!」
どさっとビニール袋が落ちる音と一緒に、叫ぶような声で告げられる。
慌てて二人で視線を向ければ、そこには顔を真っ赤にしたカリーナが立っていた。そのままどたどたと上がりこんで、虎徹をバーナビーから引き剥がす。
「心配になって来てみれば、風邪で弱ってるのをいいことに何襲ってんのよ、けだもの!!」
「え、今のどう見ても俺が襲ってるってことにはならねーだろ!なあ、バニーちゃん」
虎徹に同意を求められるも、カリーナに見られたことで動揺しているバーナビーは、顔を真っ赤にしておまけに涙目である。これじゃあ、どう言い訳しても弁解は難しい。
「あんたもあんたで!無事なら無事ってメールくらい返しなさいよ!いや、無事じゃなかったのよね。貞操の危機だったんだし…。取りあえず薬とかご飯とか買ってきたから、感謝しなさいよね!」