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X'mas!(キョンハル)

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大型の書店や喫茶店に紛れた中にぽつんとあるようなこじんまりとした店で、いままでこんなところがあるとは気づかなかったもんだから、女子のかわいいものに対する観察眼には心底感服する。
入り口から最奥まではたいした距離はなく、突き当たりのレジとおぼしき木製の机には品のよさそうな婦人が少々メルヘンチックなワンピースを身に付けて静かに本を読んでいた。……まあ、この店の雰囲気にはぴったりだな。
前方ではハルヒがいろいろ手にとって眺めている。こうやって黙ってると、本来の美少女っぷりが大いに発揮され放課後に友達と買い物に来た普通の、いや、ルックス偏差値だけで言えば全国上位レベルの女子高生なんだがなあ。

「よし、決めたわ。この……ってキョン、何みてるのよ」

いや、おまえがなに見てるのかと思って。

「ばかねっ、プレゼント交換するのに見ちゃったら意味ないじゃないの!」

おお、確かに。わかったら楽しみが三分の二減するな。

「わかったら阿呆ヅラしてないで自分のプレゼントでも選んでなさい!」

へいへい、わかりましたよ、どうせ阿呆ヅラですとも。
とりあえずハルヒの姿を見ないように逆側の棚へ目を向けると、小さな小物やら何やらがきれいに並べられている。どれもそこらの量産店と違ってそれぞれが数個ずつしかない。
小学生の女子って何が欲しいんだ?残念ながら俺にはロリコンの気はないし、妹の部屋に入る機会もそうそうない(向こうが勝手にこっちにくるから必要がない)。どうしたものか……
うーん、と普段考えもしない女子へのプレゼントに頭を悩ませていると、ふと紅い目をしたどっかのお茶会に出てきそうなウサギのキーホルダーが目に入った。親指くらいの大きさのくせに、もってみると銅製なのか予想外に重みがあって、赤褐色の中で唯一光る紅い目が妙に印象に残る。
……妹にはこれでいいか。
値段も手頃だし、小学5年生の女子はたしかこういうものが好きなはず、だよな。
ハルヒももう会計を済ませただろうと思って振り返ると、包装紙もわからないようにするためなのかはわからないが恐らくカバンにプレゼントを仕舞ったのだろう、来たときと変わらない手荷物を肩に掛けたまま向かいの棚を凝視していた。
何をあんなに見つめているんだ。
視線の先を追うと、そこには小さなハートがぶらさがったネックレス。
……まさかハルヒが、あんな“ふつう“にかわいいものを見てるなんてな。
普段の持ち物を見る限り、そこらの女子高生みたいにストラップやらキーホルダー、マスコット類をじゃらじゃらと着け連ねている様子はないし、シンプルな感じだった気がする。
私服に関して言えばセンスはいいと言えるのだろうし、アクセサリー類もたまにつけていた覚えがあるが……ハート。まさかのハート。いかにも女の子です、な象徴。
さすがのハルヒも女子だったと変に認識し直していたら、気配に気づいたのかハルヒが振り返った。

「なによキョン、決まったの?……もしかしてそれ? ちょっと見せなさい」

おいおい、もぎとるなよ、どこにも逃げやしないって。

「ふーん……なかなかかわいいじゃない。小5の女の子ならこんなものよね」

貴重な意見をありがとよ。

「さっさと払ってきなさいよ、まだ買い出し行かなきゃならないんだし。表で待ってるから。早くしなさいよっ」

へいへい。
来たときと同じようにあっという間に外へ吸い込まれていったハルヒの背中を見送って、会計へ向かおうとしたところでふとさきほどのハルヒの横顔を思い出した。随分とまあ真剣に眺めていたような気がするが……あれ、やっぱり欲しいんだろうか。
なんとなくちらっと入り口を見て、ハルヒが見当たらないのを認めると、にび色のネックレスのタグを裏返して値段を確認。お、見た目のわりには手頃な値段だな。
ウサギとこいつを合わせて財布と相談してもまあこれなら……
また、ちらっとハルヒの横顔が脳裏でちらついた。
別に深い意味なんてない、ただなんとなーく、これもレジに持っていこうか、そんな気分になっただけなのだ。


それから店を出ると待ち構えていたハルヒに遅いわよ!と叱咤され(せいぜい待って7分弱だったはずなのだが)、ケーキ屋へ行って典型的なショートケーキを予約した後(もちろん俺の名前でだ。)、そのまま近くのスーパーマーケットへ繰り出すと野菜から果物、お菓子まで、こんなものフォンデュするのかと疑う物たちをカゴにつめて買い上げた。もちろん資金の出所は俺の寂しい財布だ。まあしかしここはハルヒも意外と常識的で、後からちゃんと割り勘で集金してくれるらしい。さすがにこれだけ値段が昇れば罪悪感も湧くんだろうかね。
その後交換用のプレゼントを買ってないことを間一髪で思い出しまたハルヒにどんくさいわね!と叱咤され(数時間前に知ったばかりなんだから多目にみてほしい)、結局適当な服屋に入って無難に白いマフラーを買った。……朝比奈さんが着けたらきっとすごくかわいいんだろうなとか思いながら。
そんなこんなで家路につく頃には8時を回っていて、大荷物を持たされた俺はこの寒いなかどんなに不憫なことだろか。ああ、スーパの袋を握った手がとれそうだ。

「クリスマスイブかあ、なんだかばかっぽいわよね」

なんだ急に。

「だって、あんたは誕生日の前日からこんなにお祝いする? あたしはしないわ」

まあ、確かにな。

「だからイブってばかばかしいなって思ってたの。クリスマスの準備してると、なんだかんだイブも参加してる感じになっちゃうけど、実のところみんなクリスマスよりイブを重視してるような気さえするのよね」

部室でバカにされたとき、俺もおまえはその仲間だと思ったさ。

「そんなわけないでしょっ! いいわ、あたしはクリスマスこそを存分に楽しんでやるんだからっ」

そうだな、おまえのセレクトしたこの具材たちなら、いろんな意味で楽しめそうだ。

「絶対においしいわよ! きっと足りないくらいねっ。明日忘れないで持ってきなさいよ、じゃないと死刑だから!」

……明日の朝もこれもっていかにゃならんのか。やれやれ。

「じゃああたしこっちだから。また明日ね!」

おお、また明日ー……じゃなかった。

「待てハルヒ」
「なによ?」
「これ」

さっきなんとなーく買ってしまったやつを鞄から取り出す。ああ、本当にスーパーの袋が邪魔だな!

「……なに、これ」
「あー……なんだろうな」

ほんとになんなのか、自分でもわからん。
これをレジ(らしき机)に持っていったとき、あの品のよさそうな婦人は、やはりイメージ通り品よく笑いながら『かわいらしい彼女さんね、これ眺めてたからきっと喜ぶわ』とまあベタな勘違いをして、ご丁寧にきれいにラッピングまでしてくれた。やっぱり誰の目からみてもこれを眺めてたということは、気に入ったのだろう。買って間違いではない、と思うが……そうだ、一体なんという名目で渡せばいいんだ?

「……前祝いだ、前祝い」
「なによそれ、変なの。……開けていい?」
「好きにしろよ。好みじゃなくても苦情は受け付けないからな」
作品名:X'mas!(キョンハル) 作家名:永華