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X'mas!(キョンハル)

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好みじゃないはずはないが、万が一のために一応断っておく。何せ相手はあのハルヒだからな。保険はいくらかけてもかけすぎということはない。
心底不思議そうな顔をしたハルヒの白い指が、丁寧にラッピングを解いていって、中から透明なビニールに包まれたネックレスが現れた。

「えっ、これ……さっきの店の……?」
「ああ。おまえ、なんか物欲しそーに見てたから、まあ、妹のついでだ、ついで」

俺の脳内ハルヒは『ついで?!』と怒鳴るか、『うそっ、キョンにしては気がきくじゃない!』の二択を示していたのだが、現実(リアル)ハルヒそのどちらでもなかった。案外真面目な面持ちでこちらを見てくる。
おいおい、なんか変に気恥ずかしくなってきたぞ。

「ほら、イブもそう悪いもんじゃないだろ? ってことを教えて遣ろうと思ってだな」
「……そうね、存外悪くないかもしれないわ」
「そりゃあよかった」

なんだなんだ、気持ち悪いくらいおとなしいな。
まあでも、気に入ったって感じの顏してるから正解だったんだろうよ。

「キョン」

なにやらごそごそと自分の鞄を漁ると、青い包装紙に包まれたものをずいっと渡してきた。
なにかね、これは。

「いいから、開けなさいよ」

言われた通りに開けると(途中、もっと丁寧に開けなさいよ!と叱咤が飛んできた)、中からグレーの暖かそうな手袋が出てきた。
どう反応すべきか。

「プレゼント交換用に買ったんだけど、もらっといてお返しなしっていうのはどうかと思うじゃない?」
「その辺はよくわからんが、まあ、くれるっていうならありがたく頂くよ。しかし交換用のはどうする気だ?」
「明日部活にいく前に買っていくわ。集まるのは午後からだし。あ、せっかくあげたんだから、着けて帰りなさいよ」
「ちょうど誰かさんの大荷物のおかげで、手が死にそうになってたところだ。そうさせてもらうさ」

手袋をつけようとして、ふとこいつはどうなんだと思い、

「そういうおまえはつけないのか?」

言ってしまってから、手袋とネックレスはまた種類が違うだろうと気づいたがいまさらだ。
ハルヒも目を丸くしていたが、手に持っていたそれを数秒眺めるとぴりぴりとテープを剥がして中身を取りだし、袋を丁寧に畳んでコートのポケットに仕舞ってからつけはじめた。
しかしどうにも手が冷たいからか、見えないからか、うまく着かないようで見るに見かねた俺の良心が手助けを申し出てしまったのは仕方ないことだろう。

「ほら、貸してみろ」

ハルヒの背後に回ってつけてやる。……あれ、つかんぞ。このネックレスの金具の小さいこと、かじかんだ手では感覚がつかめなくてうまく引っ掛からん。

「ちょっと、なにや……っきゃ!」

すまん。
ごそごそやっていた拍子に冷えきった手が首筋を触ってしまったらしい。
……おお、やっとついた。

「まったくほんとにトロいわねっ」

こっちだって手が冷たくて感覚鈍いし、ネックレスなんてもんは普段つけないんだから仕方ないだろう。

「ならさっさと手袋はめて鈍い手とついでに頭もなんとかしなさいっ」

頭は余計だ頭は!

「……まあ、でも」

そういって鼻と頬を寒さで赤く染めながら真っ直ぐこちらをみたハルヒは、よく似合っているといえるそのネックレスに軽く触れると、

「ありがと、ね」

花のように笑ったのだった。
























後日談。
翌昼俺はあの手袋をはめてくそ重たい荷物を運びながらケーキを取りに行きさらに荷物を増やすという地獄のような状態の中、ハイキングコースよろしい坂道をぜえぜえしながら登りきり、それなのに苦労に見合わずすでに到着していたハルヒに遅い!とどやされ、昨年に倣ったサンタ朝比奈さんが入れてくれたお茶を飲んで一息ついて間もなく、フォンデュの用意やらなにやらいろいろこき使われつつ、またみんなで変わらず過ごすクリスマスをそれなりに楽しんでいた。
ハルヒのセレクトした具材は、いったいどんな化学変化が起きたらこうなるんだ、と思うほど意外にフォンデュに合っていて、昨年の闇鍋同様部員たちを驚かせた。チョコレートに人参とか、チーズにマシュマロとか、絶対にあわないと思ってたんだが……恐るべし、ハルヒ料理。
そうして飲み食いが一段落した後は例のプレゼント交換で、音楽の流れている間プレゼントを回し合って、止まったところでそのプレゼントをもらうという典型的なものだった。ハルヒならもっと、争奪戦とかなんとか言ってまたくだらんことを思いつくのかと思っていたから少々拍子抜けだ。
俺のゲットしたのは長門のプレゼントで、中身は本だった。クリスマスらしいのかは甚だ謎だが、内容は一応雪国を舞台としたミステリーものだったし、まあ長門らしいといえば長門らしい。
俺の買ってきたマフラーはといえば、ぜひとも朝比奈さんに渡って欲しかったのだが、はっ、わかってたさ。現実なんてこんなもんだよな。もちろん、古泉に渡っていた。……しかも無駄に顔がいいアイツには、認めるのは癪だがたしかに似合っていたのだから悲しいことよ。他のみんなもハルヒは室内用靴下で朝比奈さんから、長門は耳当てで古泉から、そして朝比奈さんは写真たてでハルヒからと、それぞれ行き渡り、またそれから一騒ぎした後、かくしてクリスマス会は無事終了した。
帰り支度の途中、ハルヒの首もとをみて朝比奈さんが、「かわいいネックレスですね」と言い、ハルヒがそれに「気に入ってるの」と答えたのが聞こえたが、昨日とは違いマフラーをしてしまったため果たしてそれが昨日のやつかどうかはわ知るところではない。

「じゃあみんな、また! 多分初詣には行きたいなあって考えてるから、近いうちに連絡するわねっ」

「ではみなさん、これで。風邪には十分気をつけてくださいね。またお正月に」

「………」

そうしていつものように、いや、いつものようになんて言いたくないのだが、古泉とふたりになった俺は昨日のことを訊いてみた。

「昨日ですか?……いえ、本当に僕個人の私用でしたので、朝比奈さんとも長門さんともお会いしてませんね。もっと言ってしまうと、お二人が昨日部活を休まれたことも知りませんでした」

おいおい、なんだそりゃ。すごい偶然ってことか?

「……あくまで僕の推測ですが、朝比奈さんも長門さんも僕と同じだったと思いますよ。個人的な用事で休んで、凉宮さんとあなたがふたりだったことは知らなかった。もし仮に凉宮さん絡みで何か起きていたら、確実にあなたには知らせるはずですし、朝比奈さんや長門さんが“仕事“として動くのなら、組織を通じて必ず僕にも連絡が来るはずですので」

それじゃあ、ほんとにただの偶然だったわけか。珍しいこともあったもんだな。

「そうですね。けれど僕たちは“偶然“を意図的に作り出せる存在を知っている」

……ハルヒか。

「そうです。これもまた、凉宮さんの願い、願望だったのかも知れない」

……またいつものか。いいさ、聞いてやろうじゃないか。
作品名:X'mas!(キョンハル) 作家名:永華