そして私も居なくなった
そうして、私はお姉様を待ち続けた。どれだけの時間が過ぎたかも解らなくなったある日、一人の少女が私の前に現れた。
「十六夜咲夜ともうしますわ。今日からお嬢様と妹様のお世話をさせていただきますので、よろしくお願いします」
銀の髪が何とも好きになれなかった。けれど、お姉様の選んだメイドに文句を言いたくなかったし、お姉様が私の様子を見てくれたのはこれが初めてだった。私はとても嬉しくて、久しぶりに笑った。
「咲夜っていうのね? お姉様ったら私の事、てっきり忘れていると思ってた」
冗談めいた口調で咲夜に話しかける。
「お嬢様はいつでも妹様の心配をなさって居ましたよ」
「だったら咲夜。私ね、お姉様と遊びたいわ」
咲夜は私の目を見た後、静かに告げた。
「わかりましたわ。お嬢様に聞いてみますわ」
「本当?! 咲夜ありがとう!!」
私は嬉しくて、このメイドを抱きしめてしまいそうになった。だけど私はそれをぐっと我慢して、平静を繕う。
「ええ、だから良い子にしておいてくださいね?」
「うん、絶対だよ!」
頭を下げて出て行った彼女を見つめて――彼女の姿が重い鉄の扉で遮られるまで――私はずっと咲夜を見つめていた。
それから、毎日食事を運ぶ咲夜に私はお姉様の事を聞いた。一向にお姉様は私には会ってくれなかったけれど、お姉様の話を聞くだけで私はお姉様を間近に感じる事が出来た。――嘘、そうするしか寂しさを紛らわす手段が無かったから。
作品名:そして私も居なくなった 作家名:ドナ