【腐向け】西ロマ+米SS・5本セット
クリームソーダの弾ける泡
「料理を教えて欲しい」
「お引取り下さいコノヤロー!」
突然の来訪者は、予想もしない相手だった。
昼食を食べ、だらだらとした昼下がり。シエスタでもしょうかとのんびりしていたロマーノは、玄関のベルの音に舌打ちをした。
一体こんな時間に誰だと乱暴気味にドアを開けると、そこに立っていたのは眉毛紳士。思わず反射でドアを閉めてしまったが、来客は力づくでドアをこじ開けた。
「いいい、一体なんの御用ですかコノヤロー!」
妙に気迫の篭ったイギリスに泣きそうになりながら、ロマーノは震える声で用件を聞く。その答えは、イタリアが世界覇者になる位に無理な話だった。
だが問題無い、適任者は他に居る。イギリスの腐れ縁の男は料理を得意としていた。恐る恐る提案するものの、希望はにべもなく却下される。
「……フランスに」
「お前がいい」
「……何で俺が……」
「お前、アメリカと仲いいだろ? 仕方なくだ」
「はぁ……」
アメリカの好きそうな物を作りたい。要はそれだけの話らしく、最近仲が良くなったこちらに聞きに来たようだ。それ程までにフランスと会いたくないのかと心の中で呆れ、それもそうだなと本人が聞いたら怒りそうな事を思う。
イギリス料理の不味さは身に染みているというか最早トラウマ級だが理由が気にならない訳ではない。紅茶やローストビーフは美味しいのだから、何かおかしくなる理由がある筈。それを突き止めれば、殺人料理が少しはまともになるかもしれない。
世界と元弟である友人を救えるのなら、そして自分に被害が来なくなるのならば。イギリスの殺人料理の秘密に惹かれ、ロマーノは料理指導を受け入れた。元々断れる気がしないのは秘密である。
「っても、あいつの好物か……肉?」
首を捻りながら、最近友人と取った食事のメニューを思い出す。自分が煩く言うのでサラダも頼むが、ハンバーガーやステーキなど、アメリカが好む物は肉料理が多い。
ローストビーフの事もあり、ロマーノは肉料理をイギリスに勧めた。肉料理で失敗をするのは、中々難しい気がする。自分の言葉に、イギリスは鼻を鳴らして胸を張った。
「肉料理なら得意だぜ」
「へー、そうなん。……いえ、そうですか」
うっかり適当な返事をしてしまい、ギロリと睨まれる。慌てて言い直し、早くお帰り頂かないとこちらの心臓に悪いと胸を押さえた。過去のトラウマもあり、どうにもイギリスには恐怖が先立ってしまう。
「何作るんだ?」
「簡単で、今ある材料だと……」
キッチンの棚を開け、冷蔵庫を開ける。備蓄は完璧なパスタを手に、ロマーノは頭を掻いた。頭に浮かぶのは、アメリカのパスタ。個人的にあまり好みではないのだが、あの大味な作り方は失敗する事も無いだろう。
「ミートボールのパスタかな?」
「ミートボール? ミートソースじゃなくてか?」
「あいつん所はミートボールなんだとさ」
「……はぁ、肉好きだな」
肉は塊に限ると笑って言いそうな男の顔を二人で思い浮かべ、同時に噴出す。どうやら同意頂けたようなので、さっさとパスタ作りに入る事にした。
(どうしてこういう時にヴェネチアーノが居ないんだよ!)
お湯を沸かしつつ、一緒に日本に行こうと言う誘いを断った事を激しく後悔する。ドイツと一緒なんてごめんだと蹴ったが、この恐怖を事前に知っていれば喜んで同行しただろう。
イギリスには邪魔にならないよう鍋のお湯の番をして貰い、自分は挽肉を解凍する。大体の材料が揃った所で鍋を振り向けば、何故かお湯が黒かった。
「ロマーノ、お湯沸いたぞ」
「……これくらいの塩を入れて、溶かして下さい……」
「まかせろ!」
ぎこちない動きで塩を指示し、キッチンを飛び出る。離れた廊下で携帯を取り出すと、震える手でスペインの番号を呼び出した。
「ロマーノ、どうしたん?」
「イギリス様が黒でお湯が沸いてて、俺がちょっと目を放した隙になんで!」
「……ちょっと落ち着き! 何、イギリスがおるん?」
「料理教えてくれって来て、なんでお湯沸かしただけなのにもう怖い事になってんだよぉ……。イヤだ何か怖い、助けろスペイン!」
涙声で小さく叫べば、了承の声とともに通話が切れた。こういう時に頼りになるなと気持ちは少し落ち着き、携帯の画面に視線を落とす。ロマーノは念の為もう一人、助っ人を呼ぶ事にした。
作品名:【腐向け】西ロマ+米SS・5本セット 作家名:あやもり