【腐向け】西ロマ+米SS・5本セット
「ロマーノ、これどうすんだよ」
「その前にイギリス様。そのお湯は何故黒いのでしょうか」
恐る恐るキッチンに戻り、震える指で鍋を指す。ぐらぐらと煮える鍋は、不透明の液体で満たされていた。何故か電話をする前よりも悪化している。
「ん? ああ、この辺りにあったハーブを入れてみたんだが……」
「ハーブ!? うちのハーブでこの漆黒が!!?」
調味料の棚を振り返り、そこに劇物でもあるのかと揺れる視線で探るが変化は見られない。そもそもハーブで黒は出ないだろうと突っ込もうと思ったが、鍋の液体にとろみがつき始めているのを見て口を閉ざした。
これはもう、自分の手に負える物ではない。
(この液体でパスタを茹でるのか……?)
絵本で見た魔女の鍋のような姿に、涙が出そうになる。とはいえ、これでイギリスの料理の原因が一つ分かった。
本音を言えば今すぐ突っ込みたいが、恐怖で上手く喋れない。一旦鍋を離れ呼吸を整えると、うっかりを装ってイギリスを鍋から動かした。
「お湯沸くの早すぎて、こっちの準備が間に合わないですね! イギリス様手伝って下さいませんか?」
「おいおい、仕方ねーな」
口調とは裏腹に満更でもない顔で包丁を握るイギリスに、ミートボール用の野菜を渡す。多めの量に不思議そうな顔をするものの、野菜嫌いなアメリカの事を思い出したのか大きく頷いて切り始めた。
(手つきは悪くないっていうか、かなりいい感じなんだよな)
野菜を細かく切り刻む姿を横目に、そう思う。年季が入っているせいか、包丁を動かす姿は様になっていた。挽肉をこね終え、切り終わった野菜を混ぜてタネを作る。
肉に関しては普通に作業が進み、ロマーノはイギリスの料理ヘタの理由の大きな原因はやはりアレかと確信した。
「肉はこれでいいのか? もっと何か入れたりしないのか」
簡単に出来る物をチョイスしたのに、その簡単さが逆に不安になるようだ。イギリスの台詞に肩を震わせると、ロマーノはなるべく声を抑えて返答した。
「イギリス様、レシピというのは誰が作っても失敗しない味付けになるように出来ているものです。だから……」
「だから?」
「余計なモン入れるんじゃねーぞコノヤロー! 俺のお気に入りのパスタ鍋えええええ!!」
視界に入ってしまった漆黒鍋に涙が滲み、つい最後は叫んでしまう。料理が下手だと自覚しているのなら、せめてレシピを守るくらいはして欲しいものだ。アレンジはその料理が普通に作れてからでいい。
「ちょ、ロマーノ叫んでどうしたん!?」
「ロマーノ、どうしたんだい!?」
魂の叫びを聞きつけ、携帯で呼び出した二人が同時にキッチンに突入してきた。驚いた二人の顔を見て緊張が緩み、どっと涙が溢れてくる。
「おせえぞスペイン、このやろぉ……」
「あーあー、親分来たからもう大丈夫やで〜」
ふらふらとした足取りでスペインに抱きつき、子供のように泣き続ける。恐怖から逃げるように強く抱きつけば、落ち着かせるように背中が撫でられた。
「ちょっとイギリス、ロマーノ泣かすのやめてくれないかい?」
「俺のせいかよ!?」
「お前以外おらんやろ!」
スペインとアメリカに交互に怒られ、意味が分からないとイギリスは口を曲げる。撫でられる手の合間に鍋を指差せば、覗き込んだアメリカが近くの蓋を取り慌てて閉めた。流石の彼も、あれは劇物と判断したらしい。
「……これ、何だい?」
「お湯」
「お湯だけで?!」
ロマーノの答えを聞き、アメリカが蓋を開けてまた閉める。真っ青になった彼に気付かず、イギリスはいいアイディアだったと胸を張って追加した。
「ハーブも入ってるぞ」
「お湯とハーブでこれ?!」
先程の自分と同じ突っ込みを聞きながら、ロマーノはスペインの腕の中でようやく落ち着いた。はふぅ、と息を吐いて体の緊張を解く。
(こういう時、すげぇ好きだと思う……)
首を動かし鍋を確認したスペインの引きつった顔を見上げ、心の中何度も感謝する。いつだって助けてくれる親分。頼りになる恋人に、思わず惚れ直した。
「はー……、ロマーノが取り乱していた理由は良く分かったんだぞ」
「これは予想以上やな」
腕に抱いたロマーノの頭を撫で続け、スペインがアメリカに同意する。
「何なんだよ、お前等。早く帰れよ!」
「はあ? うちの子ん家に勝手に来たんはおのれやろ!」
いきなり現れた二人に突っ込まれ続け、怒ったイギリスが侵入者達を追い出しにかかる。ロマーノを抱き締めたままやりあうスペインとイギリスの横で、マイペースなアメリカは机の上で放置されている食材を見ながら自分のお腹を摩った。
「そんな事より、お腹減ったんだけど。パスタまだかい?」
「お前、いきなり人ん家で飯たかるなよ……」
本格的にやりあい始めた保護者二人から逃げたロマーノは、アメリカと協力して暴れる二人をキッチンから追い出す。新しい鍋を取り出し水を入れると、今度はアメリカと二人でパスタの続きを作る事にした。
「なんかイギリスがごめんね」
「……いや、俺も好奇心出し過ぎた。まさかあそこまでとは思ってなかったぞコンチクショーめ……」
「あはは、基本あの人の料理は黒いんだぞ」
「あれは料理って言うより魔術の領域だな」
面白いだろと笑う友人に溜息で返し、ロマーノはミートボールの作成を続ける。出来上がった頃涌き始めたお湯を覗き、その色が無色透明な事に酷く安堵した。
「珍しいね、ロマーノがこれ作るなんて」
ミートボールをつまみ食いしながら、アメリカが笑う。それを小突き、少し考えてから意地悪く口の端を上げた。
「お前の好きな料理を作りたいって言うからさ」
「……! も〜……馬鹿だね、あの人」
「だな」
好きなメニューは色々あれど、大切な人が自分の為に作った物ならそれが何よりの好物。そんな簡単な事にも気付かない男に二人で苦笑し、鍋に塩をたっぷり入れる。
ようやくパスタの皿が出来上がった頃、疲れた顔をしたイギリスとスペインがキッチンへ戻って来た。
「スペイン、お疲れ様」
「おー……」
丸まった背を撫で、椅子を勧める。四人でテーブルを囲み、早めの夕食を採ることにした。
「お前も手伝ったんかい」
アメリカを睨み、スペインが唇を尖らせる。その頭をぽこんと殴り、ロマーノは腰に両手を当てて睨んだ。
「俺がメインで作ったんだよ。何だ、食えないって言うのかコノヤロー」
ならやらねぇと皿に手を掛けると、スペインが慌てて止めに入る。宥めるように頭を撫でてやれば頬が緩み、少しだけ彼の機嫌が直ったようだった。
「さ、イギリスも食べよう。俺が手伝ったんだぞ!」
「アメリカが俺の為に……!」
「いや、違うけど」
友人は友人でイギリスを宥め、一緒の食事を勧める。四人で囲むテーブルは保護者達の口論を抑えつつではあったが、時が経つのを忘れる程の楽しさで溢れていた。
帰宅するイギリスに「調味料はきちんと量る」「余計な物は入れない」とスペインの影から強く主張したお陰か、その後アメリカから「イギリスの料理が美味しくなった」と連絡が入る。
自分でコツを話しておいて何だが、そんな馬鹿なと黒魔術のような鍋を思い出し、ロマーノは世界会議でアメリカに声を掛けた。
作品名:【腐向け】西ロマ+米SS・5本セット 作家名:あやもり