お題で短文浦一
ひかりにはよわいんです
まっさらな白い絨毯を楽しむように軽い足取りで一護が数歩先に跡を残していく。きしきしと彼の足の下で鳴る雪の音もどこか楽しげで、鼻歌を口ずさむ彼はさらにご機嫌のようだ。浦原は一護が付けた足跡の隣に寄り添うように足跡を連ねながら、ふわりと欠伸をする。気まぐれに顔を覗かせた太陽は白で埋め尽くされた辺りを虹色に煌めかせる。何だか二人きりの世界に邪魔が入った気がして、呆れながら浦原がまた欠伸をすると一護が振り向いた。
「なンだよ、まだ目覚めねぇの」
「ていうか、目が痛い」
静かな世界の光の乱反射は寝起きの浦原の目には少し厳しい。両目をざくざく斬りつけられるよう。眉間に皺が寄り、上の瞼と下の瞼はくっつく寸前でそのギリギリの隙間分だけが視界であるのだから、どうしなくてもしかめっ面になるというものだ。
一護が隣に並んだ浦原の顔を見上げてぶっ、と噴き出す。
「なんだよその顔、ぶっさいく!」
「酷い!一護サンが初詣行こうて言うから、早起き頑張ったのに…」
ははは、と可笑しそうに声を上げる一護を浦原はじと、と見つめる。一護がちらりと口端を引き上げて浦原を見た。
「早起きは三文の徳って言うだろ」
「にしたって早すぎる」
「文句ばっか言うと置いてくぞー」
言うなり、一護は背を向け歩き始める。恨めしくその背を見送る浦原の耳に、ぎゅぎゅと鳴る足音ばかりが何とも可愛らしい。ふう、と些か諦めの篭った吐息を吐いて幾許かの距離の後を一護に続いた。
少し前まで、雪が降るということは、浦原にとって静寂であることと同義であった。白い塊が風に揺れて舞い落ちること、唸りを上げて吹き荒ぶこと、しんしんと細やかに嵩張ること、どれを取ってもそこにあるのは無音の軋みであって、浦原の目にも耳にも音は遠かった。積もって一面白く塗り潰された銀世界を、せいぜいが縁側から眺めるだけのものであったのだ、この子供と出会うまでは。この一護という子供は、見事に雪に覆われてしまった庭を見て、浦原の腕を引っ張り素足のまま庭に足を下ろした。冷たいと言った浦原に当たり前だと笑った。寒いと言った浦原に当たり前だと笑った。綺麗だ、と言った浦原に、だって雪だからと言って笑った。陽が雪を照らして虹色に輝き、キラキラと主張してうるさいなと浦原は思った。けれども、笑った一護は愛しいなあと思った。
数歩分先で振り返らないまま一護が浦原を呼んだ。
「アンタさ、引き篭もってばっかいねーでたまには外、出ろよ」
「一護サンが一緒に行ってくれるんスか?」
だったら幾らだって、どこへだって行きますよ、と浦原が声に若干の期待を込めて言うと、身体半分だけ振り返った一護がぎゅ、と眉を寄せて浦原を見た。その視線があまりにも強くてありゃ、もしかして睨まれてる?と思う頃、一護はぷいと顔を背けた。
「しょーがねーから、行ってやるよ」
早口で告げられた言葉に浦原はぱちくりと瞬く。後ろから露になった一護の両耳が離れていても明らかなほど赤く染まっていて、思わず相好を崩した。
「嬉しいッスねぇ」
浦原は目を細めてひっそりと笑った。きっと彼も笑っている。
(君の笑顔があまりに眩しいから)