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内緒です

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チャットルーム




チャットルームには誰もいません。
チャットルームには誰もいません。
チャットルームには誰もいません。

田中太郎さんが入室されました。

田中太郎【こんばんはーまだ誰もいないみたいですね】
田中太郎【しばらく待機して誰も来なかったら落ちます】
田中太郎【あ、そういえば今日噂のガリガリ君の梨味食べました。評判通り―】




「…美味しかったです、と」

良く言えば平凡、悪く言えばつまらない話題しか無いなぁと今更変わる気も無いのに自分で自分に物足りなさを感じ肩と同時に指先を落としてタン、エンターキーを打つ。
我ながらネガティブだな、疲れているのかもしれないと落とした肩を拳でトントン軽く叩く。確かに今日は色々と、主に正臣のせいだと思う、精神的に疲れた。



まだ彼が好きなのか、問われた直後の僕の脳内は疑問と焦燥がエンドレスループしかけていた。

どういう事だ何でそんなちょっと待って僕は何か変なそんなバレるような事言ったっけいや言ってない自覚した時からこの世の誰一人にだって言ってないし気づかれるような言動は何一つしてない筈だけど親友だから?親友だからそこまで分かってしまうのかでも逆の場合僕にはそこまで分かってあげられる自信が無いよ正臣ごめん、ていうか何で?まだ?まだってどういう事だ何でそんなちょっと待って、

「いやあの人っつーか、あの人側の世界っつーか、さ」
「………」

紛らわしい。何て紛らわしい訊き方をするんだ。既にベタついていた身体に更に冷や汗を掻いたじゃないか。
やはり親友でも以心伝心とはいかないらしい、のでもし正臣に何かあっても僕は気づいてあげられないけどお互い様だよね。色々と助かった。
とにかく一安心だとホ、小さく息をついた瞬間ブンッ風を切る音がして眼前に拳が迫り、鼻先で寸止まると柔く風が僕の短い前髪を揺らした。

「…だとしても、また俺がこうやって連れ戻してやるけどな」

言ってファイティングポーズを向けただけならまだしもウィンクまでしたその態度は鼻に付いたし、以心伝心とまでは僕の事を理解もしてくれていないが、それでも僕を想ってくれている親友に感謝を込めて今度ソーダ味奢るよ、と言えば。

「いや、梨味がいい」
「…」

親友と云えど人の気持ちなんか全然分からないなと思った。


それから社に戻り雑務を終え珍しく定時に上がれて予定も無い上に金曜だったので正臣にご飯でもどうかと誘ってみたら、悪いな俺のアフターファイブは美女の予約で半年は埋まってるから、と断られいや沙樹さんに浮気がバレて半年間小遣い減らされただけでしょ、と返せばナンパは浮気とは言わねぇし独占禁止法な俺を独占したらサキが他の女に恨まれるだろ、とワケガワカラナイヨな言い訳を聞かされ更にはお前も俺を見習え花金に俺なんか誘ってねぇで杏里とか杏里とか杏里とか、放って置けば永遠に杏里とか、とか言い続けそうだったので最後まで聞かずにそのまま一人寂しく家路を辿る事にした。花金って何だろう。

正臣と沙樹さんは籍を入れてこそいないが二人で共同貯蓄を始めたらしく結婚まではもう秒読みといった感じで、既に財布を握られているところを見ると近い将来尻に敷かれるなと横目で同情しながらも幸せそうで羨ましくもある。つい三ヶ月程前に矢霧くんと張間さんの結婚報告も葉書で届き、こういうのは周りに合わせる事でも無いだろうと思いながらも多少の焦りは感じる。

「…結婚か」

自分がその単語から連想する女性は一人いる事はいるし、こちらの好意は恥ずかしながら周知で彼女からも多少の好意は感じるがそれは出会った当初、学生時から大して変化していないだけとも言える。
その証拠に、未だに食事に誘うのにも緊張する始末で我ながら情けない。

強く決断や行動出来ない理由が、誰にも言えない気持ちを抱えたまま彼女にアプローチするのが失礼な気がするからなのか単に僕が色恋事に弱いだけなのか。自分でもよく分からないがどちらかと言えば後者な気がする。考えたくは無いが一生独身の四文字が脳内にちらつく。
いやいやこの齢で諦めるのは流石にまだ早いよ正臣の言う通りたまには誘ってみてもいいよねこの前論文も一段落ついたって言ってたし、思い駅への道すがら勇気を出して今は大学院の研究生で多忙な園原さんに電話してみた、が、セルティさん家で夕飯を馳走になっていると嬉しそうに報告され軽く脱力したところで新羅さんに代わり『帝人も来ないか?』ってセルティが言ってるよ良かったら来ないかい?と誘っては貰えたのだが今からは迷惑だろうと適当に理由をつけてまた今度是非、丁重に断って電話を切ってから、緊張したせいか疲れがドッと増した気がした。



そして帰ってきて例のチャットにいそいそとログインしてしまうあたり僕も大概終わってるなぁと自嘲する。夕飯になる予定のシーフードヌードルから漏れる香りがまた独り身に染みる。

あと一分、夕飯の完成をジリジリと待ちながら独りと言えば、そこから連想するのは失礼極まり無いがまた彼を思い出してしまってまぁ思い出すだけなら自由だし害も無いだろう、あの人は結婚とかするのかな彼のイメージには全くそぐわないが顔と経済力だけ見れば相手には困らなそうだしでも性格がアレだし本当に何で僕はあんな人が。


彼の生き方に、他者を踏みつけてでも自身の欲求にだけは何処までも従順な、僕にも中身は違えど同じく強い欲求だけは在るが到底真似出来ないその生き方に惹かれたのか、それともそんな自身をどこか心の端では嫌悪すらしているように見えて彼のそんな矛盾した部分が切なく思えて惹かれたのか。
どちらでも有るしどちらでも無く、もしかしたら幾度か交わした他愛も無い会話が何より大事なのかもしれない。


蓋を押さえていた粘着力の弱いシールを取ってペリペリと蓋の残りをほぼ全部剥がして側面に垂らすとムワッと湯気が顔面に当たる。フーと息で湯気を退かし割り箸で麺を軽く解してからズズズと啜る。割り箸に付着した青ネギを見つめてそういえば、ふと思い出す。
昔一度だけ平和島さんに追われていた彼を、もうライフワークと言っていいんじゃないか、僕の当時住んでいたボロアパートに匿った事があった。厳密に言えば匿った訳では無くドアを開けたら勝手に入ってきたのだが追い出すのも何だし丁度夕飯時だったのでシーフードヌードルを出してみたのだが、嫌そうな顔をしていらないと素気無く断られた。お湯も入れてしまっていたし棄てるという選択肢は最初から無いので仕事か何かで携帯を弄る彼の後ろで僕が一人でズルズル啜っていると美味しそうに食べるねぇ、気づくと振り向いていた彼に声をかけられ一人で食べているのも申し訳無く再度勧めてみると、彼は少し迷ってから今度は箸を受け取り一口、含んだ途端に無言で眉を顰めた。
その表情が何とも言えず微妙な、造詣が整っているからか余計に可笑しくて笑いを堪えるのが大変だった。

僕は彼のあんな顔がまた見たいだけなのかもしれない。


そんな些細な願いすら誰にも言えないんだなと自分で決めた事とは言え寂しい現況も相まって少し悲しくなってきた頃、目の端でチャットルームに誰かが来たと気づく。

作品名:内緒です 作家名:湯鳥