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Grateful Days

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 ラブマシーンの実験であちらの当局はそれなりの厄介を抱える羽目になったはずで、そこを推してまた同じ事をしているとはあまり思えなかったが、…投資分を取り返したいとか、もう少し違う実験もさせてみたいとか、そんな意見が飛び出してきたのかもしれない。あの実験では自分達の足元も危うくなっただろうから多少は懲りていてしかるべきだが、えてして権力に近い人間と言うのは、自分だけは大丈夫、自分だけは利を得られるという思い込みに取り付かれやすくなるらしい。子供より愚かな大人など、たくさんいるのだ。残念ながら。
 とにかく動いている相手の大きさによっては、こちらも戦略を練り直す必要がある。そしてそれこそは理一向きの仕事だっただろう。情熱よりも狡知が求められる役割だ。
 理一は顎を押さえた。どこに打ち込めばどう作用するか、これはそういう、頭脳戦。
「…、」
 画面に浮かんだ名前と番号に、一瞬理一は指をさまよわせたが、…一瞬だった。


 それぞれがそれぞれに出来ることをしている間。
 51、というメッセージを送ってしまえば後は待つだけ、となった健二(名実共に、今は「仮ケンジ」)は足をブラブラさせながらアバター同士並んでいた。
「そういえば君はなんていったらこうなったんだ?」
「なんていったら、って、…ああ、答えですか?」
 そうだ、というので健二は思い出してみる。
「ママはどこ、っていうから。…噂だけ聞いたときには、何かの暗号かなって思ったんですけど…」
「けど?」 
 微妙に届かない手で、リスは後ろ頭をかく。
「ここにいるよって、そう言ってほしいんじゃないかなって答えたら、こうなってました」
 侘助は驚いたらしかった。すぐに返事はなかったし、アバターの様子もおかしい気がした。
「自分でもよくわかりません。でも、そんな気がしたんです」
 それでも念を押すようにそう言っていた。理由は、健二にもよくわからない。
「…ここにいるよ、か」
 やがて間を置いて、侘助がぽつりと呟いた。きっと彼にしても思うところはたくさんあるのだろう。


 佐久間から送れられた情報をもとに、キング・カズマはある一箇所に辿り着いた。無限に存在するOZの中の「ある地点」。
「…」
 一見、そこは何もない地点だった。だが、OZ特有のあの白い綿雲もない空間だった。何もなさ過ぎる空間だったのだ。
 果てなどないOZでも、ぶつかるとひび割れる場所もある。ラブマシーンと戦っていた時に、佳主馬もそれを知った。あまり好ましい形ではなかったが、とにかく知った。
 すぅ、と息を吸い込む。ウサギの拳が固められる。前に、突き出される。

 ――パリン!

 ひびが、入った。そのひびの中心へ、回し蹴りが吸い込まれる。ひびはばりばりと広がっていき、遂にはすっかりと空が割れた。
「佳主馬くん!」
 まるで壁など最初からなかったかのように、そこには健二のアバターがいた。
 …ふたり。
 かつてラブマシーンに奪われた彼のアバターと、あの騒動の時に作られた仮のアバター。その二つが、飛び込んでいったウサギを見ていた。
「…健二…さん?」
 さすがにウサギも戸惑った。その戸惑いが隙を作る。
「佳主馬くんっ!」
 もしもそこが現実の世界だったら佳主馬は気配を感じられただろう。だがそこはOZで。キング・カズマ佳主馬のアバターであって佳主馬自身ではない。
「…っ」
 最初の一撃はまともに食らってしまった。だが、伊達に「キング」を名乗っているわけではない。勢いを殺しながら、キング・カズマは背後から攻撃を仕掛けてきた「何か」に蹴りを突き出した。知らないアバターがその攻撃で吹っ飛ぶ。
 そのアバターは、子供の姿をしていた。

「…ゴースト!」
 モニタのこちら側で、佐久間は目を見開いた。キング・カズマにバトルを仕掛けているのは、あれこそはゴーストに違いない。
 今までキングが戦ったアバターより強いと言うことはないだろう。だが、そこはバトルフィールドではない。当たり判定がないということは、バトルは終わらないということだ。どちらかが諦めるまで。そして実体ではないアバターに疲労というものはない。ヒットすれば何となくアバターの様子に変化のようなものは見てとれたが、結局逸れは擬似的なものだろう。それに、ゴーストは「ゴースト」らしく動きにつかみどころというものがない。
 それでもまさかキングが負けることはないだろう。佐久間は、ゴーストを何とかするのはOZのヒーローに任せ、ふたりの健二に声をかける。
「健二! …なのか?」
 リスがぴょこん、と跳ねた後モニタの中から佐久間を見た。
『佐久間!』
 佐久間はずるずると崩れ落ちた。多分、安堵で。
『佐久間、理一さんと連絡取れる?』
「ここにいるよ」
 ひょい、と理一がヘッドセットをつけた姿で佐久間の後ろからモニタを覗き込む。どういうことになっているのか、アバターはしっかりと理一の姿を認識しているらしい。目の動きでそれはわかった。カメラの性能? とかそういうことを途中まで理一は考えて、結局放棄した。理一はそういう専門家ではない。
『理一さん! 侘助さんを、助けてください!』
「…は?」
 助けるってどういう、と眉を潜めた理一だったが、リスがかつてラブマシーンに乗っ取られた彼自身のアバターの腕を引っ張って画面の中央に引っ張り出したものだからさすがに息を飲んだ。
 だがそれでも、そのアバターが『…よお』と言ったのと比較すればそこまでの驚きではなかったかもしれない。理一ともあろうものが、画面を指差して「…侘助?」と絶句してしまった。
『僕たちは、理一さんによると、ある程度時間が経ったら消えるんです。その時僕たちの本体というか、本体が目を覚ますそうです。でも、そうなるのにかかる時間はわからないし、侘助さんには早く目を覚ましてもらわないと!』
 リスは舌を噛みそうになりながら訴えていた。理一も佐久間も呆然としていたが、揃って眠る健二を振り向き、それから同時にモニタを見た。
「…侘助。どういうことになってるんだ?」
『詳しいことは話せない。俺にもよくわからないからな。ただ、あのゴーストってのは、ラブマシーンのプロトタイプのひとつだ』
 理一は額を押さえた。関与していたのか、この男は。
『勘違いすんなよ! 俺が離したわけじゃねえ、誰かが故意に逃がしたんだ、俺はがっちりロックしてたさ、過去の結果は』
「誰かって、…」
 理一は問いかけようとして、やめた。そんなことをするのなんて、そうたくさんいないはずだ。
 ――さきほどの電話が効いてくれることを祈りながら、理一は続ける。
「おまえ、空港で捕まったんだろ」
『…なんで知ってる。ストーカーか?』
「なんでそんなことをする必要がある」
 理一は溜息をついた。
「アバターを食うなんて噂の謎のアバターなんて、怪しすぎるだろ? だからだよ」
 おまえが関係者だと思ったからだ、とほのめかせば、少年型のアバターはいやそうな顔になった。
「うまくいけば身柄を押さえられる。それが早いか、佳主馬がそのゴーストを何とかするのが早いか…、」
作品名:Grateful Days 作家名:スサ