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Grateful Days

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Friday, afterschool @ Kuonji High school



 佐久間の情報の速さと言うものに、健二はあらためて感心せずにいられなかった。ネットゴーストの噂は、佐久間が健二に教えた数日後にはネット社会を席巻していた。それはつまり、佐久間の情報は世間より速いということだ。
 しかしネットの世界に現実世界のような自粛や自宅待機というのは当てはまらない。ログインしない、というのはひとつの自衛手段ではあるが、既に生活の大きな割合をそこに依存する時代となっている。ログインしなければいい、というのは、言うほどに簡単なことではないだろう。
「…、」
 何か考え込んでいるように見える親友といってもいいような友人に、佐久間は溜息。助言するべきかしないべきか、それが問題だ。
 なんて、洒落のめすつもりはなく、佐久間は椅子を回転させた。
「侘助さんは関係ないんじゃないか?」
 言えば、まるで佐久間がいたことを今まで忘れていたんじゃないか、といいたくなるくらい驚いた顔で健二が振り向いた。弾かれたような勢いだった。…隣にいたんですけど、と佐久間はちょっとだけ傷ついた。あくまで、ちょっとだけ。何かに集中した時の健二のすさまじさ、というものは、もうとっくに佐久間の中で既知のことだから。
「そ…そうだよね」
 健二は困ったような顔で笑う。
 佐久間は結局、実際に陣内ご一同と顔を合わせたわけではない。あくまでも回線越しに共闘したというだけで、直接に会い、話しもしただろう健二と同じ感慨を一族に対して抱くことはない。だが小磯健二という友人が彼らに対してどういう感情をもつか、ということなら佐久間にだってわかる。
 単純に言えば、健二もまたあの家族の一員なのだ。きっと、精神的な意味で。うらやましい、とどちらかに対してか佐久間はちらりと思うことがある。どちらか、を見極めないのは、ずっと健二のよき友人でありたいからだ。
「まあ、模倣犯、てのも…アレだけどな」
 肩を竦めて殊更に軽い口調で言う。健二の心配がそんなことで軽くなったりしないのはわかっていたけれど。
「うん…そうだよね」
 ぎゅ、と膝の上で拳を固める健二の横顔には、ただ心配だけではない強さのようなものが見て取れる。あの夏は彼を変えた。いや、元々あったものを表に引っ張り出したのかもしれないが。とにかく、以前とは少し変わった。
 喜ばしいのだけれど、少し寂しいような気持ちもする佐久間だ。
「まあ、どっちにしろまだ都市伝説? みたいな感じだし、実際なんか害が出てるっていうんでも…、まあ本当にアバター食われちゃったら大問題だけど。どうなんだろ、ガセっぽいのもある気はするんだよな」
 ぱちん、と佐久間はモニタの端を弾いた。健二の視線が上がる。
「ラブマシーンは、侘助さんが消去した…、だろ?」
 うん、と頷いた健二に、佐久間も思い出す。彼は自分が作り出したAIを自ら解き放った。科学者が自分の作り出したものを放棄したのだから、これはすごいことだろう。たとえ理屈や常識に沿っていなくても、自分が作り出した成果というのは特別なものだろう。ああした人種にとっては、特に。だから純粋にすごいと思ったのだ、佐久間は。侘助も、けして諦めなかった健二も、そしてその二人を繋ぎ合わせることになった栄というひとと、それから夏希も。全てのピースがうまくかみ合ったから、ああいう風になった。そう思う。
「…あんなの、真似していいことなんかないのに」
 健二は何かに憤っているように思えた。佐久間は目を細め、しばらくそんな友人を見ていた。
「…。こっちから、仕掛けてみるか?」
「え?」
 また驚いた顔で健二は佐久間を見つめる。佐久間は頷いて見せた。
「出そうだってポイントを絞り込んでさ。それで、ひっかけてみる。どうよ」
 健二はぱちぱちと瞬きした後、興奮したのか頬を紅潮させた。
「すごいよ、佐久間…!」
「褒めるな褒めるな」
 佐久間はひらひらと手を振って、謝意を受けるのを辞退する。大体、どの道放っておけることでもないだろう。なんだか目の前の友人はまた巻き込まれそうな気がするし。
「まあでも、仲間は多いに越したことないか」
「え?」
 顎をさすりながらの佐久間の台詞に、ぱちぱちと健二は瞬きする。仲間。誰を呼ぶ気なのだろう。どくん、と心臓が派手に脈打った。多分、予感がしたから。
「まずはキング・カズマ。これは絶対だ」
 指を振りながら佐久間は真面目な顔で提案した。乗ってくれるかな、と心配する気持ちもあったけれど、結局は健二も佳主馬に一緒に戦ってほしかったのかもしれない。うん、そうだね、と頷いていた。来てくれるか、と思う気持ちよりも、来て欲しい。という気持ちが勝っていたのだ。
 ――OZ経由で呼びかければ、佳主馬はすぐに返事をくれた。何しろ相手はキングで、そして実生活では中学生。そんなに自由になる時間は少ないと思うのだが、めったにない健二の連絡にはすぐに返事をくれる。健二はそれがすこし誇らしく、そして同時に気恥ずかしい。親しみを感じたのは錯覚でも健二ひとりだけでもなかったのだ、とわかるから。あのキング・カズマが、と思うと、どうしても舞い上がってしまいそうになる。
『詳しい話は今夜。アドレスはまた送るから』
 簡潔にして明瞭。佳主馬の返信はいつもそんな感じだったから、まさか佳主馬が健二にどうやって返したら子供っぽいと見られないか苦心惨憺しているなんてことは夢にも思わない健二がいる。
「協力、してもらえるみたい」
 わずかに興奮を含んだ表情と声に、佐久間は口笛を吹いた。実際「あの」キング・カズマを動かすのだから親友は大したものだ。
「おーしっ、のってきたぞ!」
「うんっ」
 椅子の上で背中を伸ばし、ばきんばきんと肩や首を鳴らす佐久間の隣、健二も強く大きく頷く。にっ、と笑って、佐久間はそんなやる気に満ち溢れた友人に提案を。
「――と、いうわけで健二君、ここで提案です」
「え、なに?」
 ぱちぱちと瞬きした健二に、佐久間は重々しく言った。
「腹が減っては戦ができないのです、健二君」
「う、うん?」
 小首を傾げる健二に、佐久間はいたずらっぽい笑いとわざとらしい溜息を。そして人差指をつけて回答を。
「篭城戦に備えて食料調達にいかね? って意味!」
「あ、…あー、そうか、うん、そうだね…!」
 ぱあ、と顔が明るくなった健二に、今夜の部室居残りを決定しながら、近所のコンビニ&ファーストフード店マップを佐久間は脳内検索。さて今夜の気分はドッチ。
「とりあえず、買出しな。健二はセブンとローソンどっち派だっけ。オレ、ファミマ派」
「…じゃあファミマで」
「いいんだぞ、セブンでもローソンでも」
「じゃあなんで佐久間ファミマ派とかいうの。…っていうか、どこでもいいよ、近いところで」
 溜息まじりに答えれば、佐久間は眼鏡を直しながら力強く宣告。
「じゃあローソンだな!」
 どこでもいいよ、と健二はもう一度繰り返した。
作品名:Grateful Days 作家名:スサ