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木漏れ日

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3.


そして翌日の午後、いつものように僕たちは、その木蔭に腰を降ろしていた。
「ごめん、ドラコ……」
ふいにハリーが謝ってきた。
「別にいいよ」
僕は気にする風でもなく、となりにいる相手を見て答えた。
そうすると、ハリーは驚いたような困った表情で視線をそらせる。
「本当に、ごめん」
ポツリとまた言った。

僕は大げさにため息をつく。
「まったく、これで昨日から何度目の「ごめん」なんだ、ハリー?もう僕は気にしていないから、安心しろ」
「……うん、分かってはいるんだけど―――」
言葉を濁した。

「もしこれで、僕が許さないと言ったら、おまえはどうするんだ?この責任を取ってくれと言ったら?」
ハリーはひどく驚いた顔になる。
「ええっ!!……えっと、それは ……。そんときは……、やっぱり、許してくれるまで謝り続けると思うけど……」
「じゃあ、どっちにしろ、結果は同じじゃないか」
頭を振って本に視線を落とした。
うつむいていると、ハリーがこっちを見ているのを感じる。
その態度がひどくぎくしゃくしているのが、気にかかった。

今日も強い風が吹いている。
ページがパラパラと動き、端を押さえていないとめくられてしまい、どのページを読んでいたのか分からなくなってしまうほどだ。
だけど、今日は髪の毛を風に乱されることはない。
きっちりと整髪料で整えられて、頭にそって撫で付けられている。
香りは、グリーン系のを選んだ。
風に乱されることなく横の髪もうつむいても落ちてこないので、うっとおしくない。

(久しぶりにこういう髪型にしたけど、結構いいな)
ぼんやりと思う。
前髪が額にかからないだけで視界が広く見えるのは、気分の問題だと思うけど。
となりにいるハリーはなんだか、ひどく落ち込んでいるようだ。

昨夜、夜中にハリーと遅いディナーを食べた。
僕たちは楽しくてごきげんで、顔を見合わせては笑ってばかりいて、ハリーがふざけて僕の伸びた前髪を切ると言い出した。
だから、素直にはさみを渡したのがいけなかったらしい。
ハリーはなぜか僕の前では、異常に緊張することをすっかり忘れていた。

「切った髪が目に入らないように、つぶっていて」と言われてそうすると、ハリーが僕の前髪をつかんだ。
やけにその指が小刻みに震えているなとは思ったけど、我慢した。
しかもはさみの横の部分が僕の額に何度も当たって痛かった。
(いったいどうしたんだ、ハリーのやつ?)
不安になって目を開けると、思ったより近い距離にハリーの顔があった。
しかもかなり緊張している。
(ああ、ヤバイ!)
僕は自分の行動を後悔した。
ハリーは覚悟を決めてはさみを入れようとした瞬間らしく、いきなり僕と目が合って、ひどく驚いてしまったらしい。

―――………

金髪が床に落ちた。
それは僕が思ってたのより、2インチは長い。無言でそれを見る。
つまりこの長さの髪の毛が、切り取られたという訳だ。
しかも、これは取り返しがつかない、前髪なんだ。

「………ハァリィー――?」
ことさらゆっくりと低い声で相手の名前を呼んだ。
そうしなければ、相手を腹でもほっぺたでも、思いっきり殴ってしまいそうだったからだ。
ケンカはしたくなかった。
今日は気分がよかったからだ。

相手を見ると、ハリーは真っ青な顔をしている。
もう後悔の嵐が襲ってきているようで、涙目だ。
「ごめん。ごめんなさい!僕はなんて、バカなんだ……」
ハリーはいつもなんで、こうドジばかり踏むんだろう?

敵対していがみ合っていた頃のほうが、今より数段はかっこよかったはずだ。
スニッチをつかんで、くやしがる僕を見下ろして勝利したときの笑み。
奇跡の生還を果たしたときの傷だらけでも、しっかりとした足取り。
あのときのハリーは英雄らしかった。

………なのに、今、目の前にいる相手が、同じ人物とは到底思えない。

その原因の一端がきつい性格の自分にもあることに気づいたので、もう責めるのはやめようと思った。
ハリーを責めてもいいことは何もないからだ。

僕は「気にするな」と言った。
「―――けど……」
「僕は週末には床屋へ行く予定だ。かなり腕がいいから、上手くカットしてくれるだろう」
「でも、その前髪はいくら上手でも、まっすぐには揃えれないと思う。もし短い部分に揃えると、かなり眉より上になってしまうよ」
「鏡がないからよく分からないけど、そんなに短いのか?」
ハリーはそっと手鏡を出した。
僕の右上の髪が不自然なほど、かなりカットされている。
「………派手にやってくれたみたいだな」
相手はまた「ごめん」と条件反射のような声を出して謝った。

僕は肩をすくめた。
「別にいいさ。いっそのこと、夏だし、思い切って全部短くしようかな。アーミーに入隊できるくらい、短くてもいいや。すっきりして、洗ったらすぐ乾くしな」
まんざらのでもない顔で頷く。
「それだけは止めてくれっ!髪の短いドラコなんて、ドラコじゃない!」
ハリーが必死で食い止める。僕はムッとした顔になった。

「別にいいだろ。僕の髪なんだし。もう毎日暑いし、丁度いいと思うんだけど」
「だってドラコ、夏休みは家に帰るんだろ?どうするつもり?そんなに髪を短くしたら、ご両親も驚くと思うよ」
「……ああ、そうだな。忘れてた」
せめてあと夏休みがあと2ヵ月後だったら短髪にもしたが、もう休みまでそう日はなかった。
父上はなんとも言わないとは思うが、母がショックを受けるかもしれない。
僕はいつも帰宅すると母上に、いろいろなパーティーに連れ回されるからな。
「あなたにマナーを教えるためよ」とか言っているけど、あれはきっと言い訳だ。ゴージャス好きな母は、僕も自分と同じくらいに飾り立てる。
毎回うんざりするが、これが一人息子の辛いところだ。
母親には頭が上がらない。
短髪には白いスーツも、手の込んだシャツも似合わないからな……

「とりあえず、お前は気にするな」
僕は強引にまだグスグス言っているハリーを部屋から押し出した。
そうでなけりゃ、ずっと朝まで枕元で「ごめん」と言い続けるからだ。
それはすごくうっとおしいし、僕もそこまで、気が長い性格ではない。
怒って、ハリーを怒鳴りつけてしまうのが目に見えていた。
ハリーを部屋から追い出したのは、お互いのためだ。

翌日の僕の髪型を見てスリザリンの仲間からは、おおむね良好だった。
僕もきっちりと後ろに撫で付けた自分の髪の毛に違和感はない。
全体がすっきりとして、背筋も一段と伸びた感じがするほどだ。

大広間に入ってきたハリーはかなり寝不足で真っ赤な瞳で、となりにいるロンにあれこれ原因を詮索されてうんざりしているようだ。
いつもの習慣で、ハリーは僕たちが座っているテーブルに顔を向けた。
僕を見つけるといつもは気づかれないような小さな笑みを浮かべるが、今日はすぐに視線をそらせた。
ひどく戸惑っているようだ。

合同授業がある日でも、ない日でも、ハリーは隙があれば見つからないように僕の横にやってきていろいろ絡んでくるのだが、今日はちっともやってこない。
むしろ意識して避けているようだ。
まあ、そっちのほうが静かにゆっくりと過ごせて、僕には都合がよかったけれど。
作品名:木漏れ日 作家名:sabure