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我らが麗しのパンディモニウム

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「姉さんはサタンの子どもで、サタンの力も継いでいた。だから、サタンが死にそうになった時に跡継ぎとして連れてかれた」

「う、うん」

「それで、『パンディモニウム』と名乗り、現在魔王になってると」

「おう」

「正十字騎士團とは、フェレス卿や父さんの協力で盟約を結び、悪魔達の行動制限も行った」

「す、すげぇだろ!」

「……その功績は認めるけど、なんで僕に生きてることくらい伝えねぇんだよ」

「ジ、ジジイ! 雪男が怖ぇーっ!」


ギラリと眼鏡を光らせ、低く言った弟の常人離れした迫力に。
悪魔を統べる女王パンディモニウムこと燐はびくりと身を震わせ、すぐ傍に立っていた元養父へ叫んだ。

本気で怯えている魔王に、聖騎士はにやにやと笑う。


「まぁしょうがねーだろ。コイツ、お前を探して死にもの狂いだったから。ようやく会えてホッとしてんだよ」

「俺の知ってる雪男はこんなんじゃなかった!」

「それはそうでしょう」


燐の叫びに答えたのは、部屋の主であるメフィストだ。
嫌味なほど優雅に紅茶を傾けた兄は、妹を笑う。


「貴女だって変わったんです。奥村君も昔のままではありません」

「で、でも……こんな腹黒メガネじゃなかった」

「腹黒はないでしょ姉さん」


駄々をこねるような言葉に呆れた雪男が、手を伸ばしてくる。
幼い頃とは違う、無骨で筋張った指が髪を梳くのは、どうにも落ち着かなかった。

しかし、それだけで弟は止まらない。


「大体、姉さんだってこんなんじゃなかっただろ。何この美味すぎる成長。髪の手入れ誰かにしてもらってるでしょ、姉さんがこんなツヤツヤで保てる訳ないし。しかも美人になっちゃってさ、肌まで真っ白じゃないか。悪魔じゃなくて天使の間違いなんじゃないの?」

「雪男さん雪男様、キャラぶっ壊れてるから落ち着け!」


優しげに髪を梳く動きに反して、どれだけ口が回るんだと言いたくなるような早口の主張に、燐もまた早口で返すが、まだ雪男は止まらない。
正直、見下ろしてくる目が怖い。


「あと姉さんスタイル良くなったよね、出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んで。さっき抱きしめた時びっくりして余計にギュッてしちゃ」

「だーまーれー!」


白い手で口を塞げば、暫くモゴモゴしていた弟が観念したように妄言を止める。
非難じみた視線に睨み返すものの、その中に潜んだ寂しさまで分からないほど鈍くはなかった。

だってその寂しさは、自分もまた感じていたものだから。


「……俺だって、雪男に会いたかったよ。お前の写真貰ったりする度にさ、何回会いに行こうかなって思ったかわからねーもん」


けれど自分は既に魔王で、結ばれた盟約により最も動きを縛られていた。
それに――そんな自分と血を分けた兄弟だと判明すれば、雪男がどうなるか分からないと、散々言われたのだ。

弟が少しでも幸せになるのならと覚悟を決めた。
それを、たった一度の自分の我が儘で台無しにしたくなかった。


だから今、こうして目の前にいる弟に。
大切な大切な片割れに対し、何も思わない訳がなくて。


「正直さ、俺も今お前と同じなんだ」


手を離しながら、揺れる自分の声を聞く。
呆然とした、唯一似ている青が、段々ぼやけて見えづらくなった。


「嬉しすぎて、訳わかんねぇの」