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愛と友、その関係式 第23話第24話

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 悲しいんじゃない。悔しくて泣いている、その涙の脆くも強い相反する美しさに目を奪われる。
 こんなにも一つのものに己を捧げられる人間なんてそうはいない。いや、口だけなら誰でも言えるし、そういう人間は沢山いる。美奈子自身もその一人だ。難しいのは、実際に命をかけるという言葉そのもののように、人生の全てを捧げる覚悟と生き様と姿勢。諦めるという言葉を知らない、ただひたすらに真っ直ぐな情熱。
 今までの鈴鹿の行動と涙には、少なくとも美奈子にそう思わせるだけの力はあった。
 試合中に飛び出してきたらしい鈴鹿にわけをきくと、積もりに積もったストレスがついに限界を超えたのだと直ぐに推理できた。
 思えば、出会ったときから鈴鹿は既に追いつめられていたように思う。その理由は、風の噂で耳にした急なポジション変更なのだろう。確かにポジション変更によってかかる選手の負担は大きい。しかも、今までのプレイスタイルと真逆で、並の選手に輪をかけて大きな負担を背負うこととなったらしい。極端な例えだが、オフェンス専門がディフェンス専門へ変えられたようなものだ。加えて、中学レベルと高校レベルは大きな差があり、その差もまた実質以上のストレスを鈴鹿へ与えることとなったのかもしれない。
 つまり、壁にぶつかったのだ。鈴鹿にしてみれば、挫折といってもさしつかえないだろう。
 出口の見えない闇に、鈴鹿は呑まれそうになっていた。
 ――どうすれば、この脆くも美しいものを守れるだろうか?
 美奈子はふるに頭を動かした。
 バスケの根本的な知識に関して、論理的に鈴鹿を説き伏せるほどの力量を美奈子は持たない。それに、それなら監督が既にやっているだろう。
 なら、慰め? いいや、駄目だ。下手な慰めは余計に傷を広げるだけだ。特に誇りを持っているなら、上辺だけの言葉をかけてはいけない。
 なら、頑張れ? 違う。――そうだ。
 美奈子はふいに思い出した。鈴鹿は何でも一人で解決しようとするところがある。一人で練習して、一人でボールをおいかけて、一人でバスケをして、きっと昔も壁にぶつかったとしても一人でどうにかしてきたのだろう。
 出会ったときもそうだった。まるでパスなんて考えもつかなかったみたいな顔をしていた。
 中学のときは、それでもよかったのかもしれない。ここまで一人でやってこれた鈴鹿の力量は異常だが……バスケセンスに恵まれているが故に、一人が当たり前になっていた。一人で何でもできると、誤認してしまった。
 ――でも、それって違う。あなたが好きなバスケじゃないよ。監督も、それが言いたいんじゃないかな。
 美奈子は意を決して口を開いた。
 
◆◇◆◇◆

「美奈子!」
 自分を呼ぶ声が聞こえた。
 美奈子ははっとして目を開く。スコアボードへ目をやると点数は変わっていない。
 ならと、今度は時計へ目をやる。時間は止まったままだ。
 どうやら、意識を失っていたのは一瞬らしい。
「大丈夫ですか?」
 声をかけられ、見やるとそこには審判がボールを手に持って美奈子を覗きこんでいる。
 美奈子が頷き立ち上がると、ボールを手渡された。
「赤四番アンスポーツマンライクファウル。白二本」
 ”やれる?”ともう一度、審判が聞いてくる。美奈子はしっかりと首を縦に振って、フリースローラインへ立った。選手達が決められた立ち位置へ行くと笛が鳴る。
 美奈子はボールを握りなおし、ゴールをじっと見つめた。
 これが入れば、はばたき学園の優勝はほぼ確実に決まるだろう。美奈子はごくりと唾を飲みこんで、そしてシュート体勢へ入った。
 ――絶対、決める!
 とんと床を蹴り、重力から離れて空を一瞬だけ飛ぶ。手から離れたボールは綺麗な弧を描いてゴールリングへ吸い込まれていく。
 遠くからでも、はっきりと聞こえた。バスケットボールがゴールネットを揺らす音。美奈子は思わず拳を握り締めした。
 瞬間、わっと会場が沸きあがる。
 その瞬間、確かにはばたき学園の優勝が決定した――。
 
◆◇◆◇◆

 チームメイトたちとの勝利の抱擁をそこそこに、美奈子はコートを飛び出して観客席へ向かった。
 確かに自分を呼ぶ声が聞こえた。そして、その声を美奈子は知っている。
 鈴鹿和馬だ。
 男子バスケ部と女子バスケ部の試合会場は離れている。だが、男子バスケ部の決勝は午前中で女子バスケ部は午後。もし、試合が終わって直ぐ向かうなら間に合わない距離ではない。
 美奈子は男子バスケ部の試合結果をまだ知らなかった。
 もちろん、勝った? まさか、負けた?
 ぐるぐると思考は巡ったが、何より鈴鹿がバスケを応援に来てくれた事がたまらなく嬉しい。
 美奈子は確かに何かを掴みかけていた。
 試合が終わったばかりだからなのか、廊下を歩く人影はいない。美奈子はこれ幸いと走るスピードを上げた。
 真っ直ぐの廊下を走って、観客席に続く階段が右手に見えた。勢いよく曲がると、急に人影が現れた。
「きゃっ」
「うぉ!」
 勢いよくぶつかって、美奈子は後ろへ尻餅をついた。ぶつかった人物も同じように尻餅をつく。
「いたた……ごめんなさい。前、みてなくて――」
 痛むお尻を撫でながら謝ると、そこには目的の人物……ユニフォームを着たままの鈴鹿がいた。ぶつかったのは間違いなく彼だ。
「和馬」
「へっ、あ、美奈子? ――っと、うわあ!」
 美奈子は破顔して、目を丸くする鈴鹿へ抱きついた。
「ちょ、ま、ま、待て! おまっ、ま……お前!」
 鈴鹿は慌てて美奈子を引き剥がした。はたと気づいて美奈子も鈴鹿から身を放す。
「ごめん。勢いでつい」
「あのな! こんなことしてっと姫条に誤解されるぜ?」
 本気で怒る鈴鹿が、二ヶ月ぶりの痛みを美奈子に思い出させた。
 ――そっか。和馬は知らないんだ。
 考えてみれば進路相談の日からまともに口をきいていない。
 美奈子は意を決して口を開いた。
「あのね」
「それよりよ」
 声が重なり二人して口ごもる。
「なんだよ」
「なによ」
 じろりと見合って、根負けしたのは鈴鹿だった。視線を外すと、がりがりと後頭部をかく。
「あー……あのよ。見てたぜ、試合。優勝、おめでとう」
 毒気を抜かれて、美奈子はぽかんと口を開いた。
「なんだよ。もうちっと喜べよな。優勝だぜ、優勝! わかってんのか?」
 鈴鹿が顔を真っ赤にさせて口を尖らせるものだから、美奈子はおかしくて笑った。
 鈴鹿がむっとして睨みつけるものだから、美奈子はまあまあと両手を振る。
「わかってるよ。――ねぇ、男バスは?」
「優勝。んで俺がMVP。ったりまえだろ」
「そっか。おめでとう」
 弾けるように笑う美奈子。今度は鈴鹿がぽかんと口を開けた。ややあって、歯をみせ笑う。
「おう」
 言って、鈴鹿と美奈子は互いの拳を合わせた。
「――あ」
 ふと気づいて、美奈子は声をあげた。
「和馬ってばユニフォームのままなんだね」
「ああ、これか? 慌てて出てきちまったから着がえてる暇なくてよ――匂うか?」
 少し照れくさそうに鈴鹿はユニフォームを指でつまんだ。
「べ、別にお前のためじゃねぇぜ。バ、バスケだからな」
「解ってるよ。バスケ、大好きだもんね」
「……。あ、あのよ」