【腐向け】西ロマSS・5本セット【にょたりあ】
0214
ああ、寒い。
そんな感想で意識が浮上した。瞼は開かない。重たい体は疲労を訴えていて、スペインは背中の感触で椅子に座ったまま寝ているのだと思い出した。
柔らかいイタリアンレザーの椅子は、以前ロマーナがくれた物。仕事に疲れると椅子の上ですぐ寝てしまう自分の為に、体に負担のかからない物をと探してくれたらしい。
(あー、ロマーナ会いたいわぁ)
やっと山のような仕事を終え、可愛い子分に会いに行こうと思っていたのに体は動かない。もう年かなとガックリしていると、部屋の外で音がした。
(泥棒さん?)
敵意のような気配は感じない。面倒だがボコればいいかと暫く様子を伺っていると、部屋の扉がノックされた。随分律儀な泥棒だ。起きるのが面倒で反応せずにいれば、静かにノブが回される。ゆっくり入る人物の香水に、スペインは緊張を解いた。
(なんや、ロマーナやん……)
微かに甘い、ベルガモット。彼女お気に入りの香水が、部屋にふんわりと広がる。花も何も無い部屋だからか、より鼻が敏感に香りを拾った。
「……また寝てる」
溜息と共に、そんな声がする。呆れたような声に、心の中で申し訳ないと謝った。何度注意されても、仕事が終わったと思うと気が緩んで眠ってしまうのだ。この快適な椅子を貰ってから、より安心して眠れるようになっている始末。
「って、ここ寒っ!」
机から離れ、エアコンをつけに移動したようだ。リモコンを押した音が聞こえ、静かな作動音がし始める。ああ、そういえば寒かったんだと思い出し、ロマーナに感謝するもののやはり起きる気にはなれない。瞼がどうも起床を拒否し、どうしようかと思えば、溜息と共に彼女が部屋を出て行った。
(あ、ロマーナ帰らんといて!)
必死に体を動かそうとするが、重たい体は鉛のようでびくともしない。長時間椅子で眠っていたせいか、酷く固まっていた。
起きようと悪戦苦闘する中、少ししてまた扉が開く音がする。足音は真っ直ぐにこちらに近づき、体をふんわりとした物が覆った。
「寝るなら、もう少し暖かい格好しなさいよね」
少し怒ったような声。親に怒られる子供のように心はしゅんとし、反省する心と毛布を持ってきてくれた事へ感謝の気持ちが浮かぶ。柔らかい毛布は一枚でも十分暖かく、暖房の風と相まってより眠りの世界へスペインを誘う。
「……約束、しないで良かった」
うとうととし始めた時、ロマーナが近くで小さく呟いた。
約束。そういえば、数日前にスケジュールを聞かれた気がする。仕事が詰まっていると話せば、椅子で寝ないようにと注意された電話での会話。それの事だろうか。
(約束、したかったんか)
手元を離れた子分は、あまり会いたいとは言ってこない。毎回こちらが押しかけるか、彼女がふらりと現れるだけ。そんな関係と思っていたが、どうやら少しは会いたいと思ってくれているようだ。ロマーナの独り言に、スペインの眠気は段々遠ざかっていく。
「んー、どうしようかな……」
ああでもない、こうでもないとロマーナは独り言を続ける。その癖に、スペインは口元を緩めた。
不器用なロマーナに、次やる行動を口に出して確認するように教えたのは自分。口にする間、確認の時間が取れ落ち着いて行動できるからと言えば、この子は泣きそうな顔で頷いた。暫くは口に出しながら掃除や洗濯をしていたが、年を重ね普通に作業出来るようになってからは人前で言わないようになっている。
人前で言わないというのは、ヴェネチアーノからの話だ。一人でキッチンに立っている時などは、どうやら独り言を言う癖が出るらしい。今この部屋で話しているという事は、自分が完全に眠っていると思っているのだろう。
起きてロマーナと話したいという気持ちと、このまま複雑な彼女の心の声を聞いていたいという葛藤が起きる。少女の心は気難しくよく怒られているので、少しでも情報を集めておきたい。
(いや、違う)
もっともな理由をつけ、それを自己否定する。怒られないように、ではなく彼女を知りたいとうのが本心だ。可愛い俺の子分。大切なロマーナ。箱入り娘として育てた彼女に、自分は家族以上の気持ちを抱いている。
もっと知りたい。彼女に好かれたい。
「ご飯、作っておこうかな」
頭の中でロマーナの事を考えていたら、傍に居るロマーナはそう言って部屋を出て行ってしまった。自分が忙しい時にふらりと来ては、暖めるだけで食べられるような食事を作り置きしてくれているので、今日もそうしてくれるのだろう。
優しいロマーノに感謝し、有難く頂く事にする。彼女の料理はとても美味しいので楽しみだ。
作品名:【腐向け】西ロマSS・5本セット【にょたりあ】 作家名:あやもり