好きなんだ。
そんな彼女を見ると、声がかけずらかった。このまま、彼女を背に逃げてしまいたかった。
「遅かったですね、黒崎さん」
彼女の声が…卯ノ花烈の声がする。先ほどまでいた場所を見ると彼女は居らず…。
「此処ですよ」
声のした方は後ろ。一護は振り返る。いつもと同じように、慈愛に満ちた笑みがそこに。手の届きそな程近くに。
「何故…、あなたが泣きそうな顔をしていらっしゃるのでしょうか?泣きたいのは、小一時間待たされた私の方のはずですが」
「…」
辛辣な言葉をかけられ、つい泣きたくなる。こんなはずじゃなかったのに。自分から、卯ノ花を呼んでおいてなんてことだろう?
「反則ですね、その顔は」
「え?」
顔を上げると、卯ノ花は眉を顰め一護を見つめいていた。
「卑怯と…言われませんか、貴方は」
「ないっすけど」
「何故、私を呼んだのでしょう?何か、あるのではないのですか」
結局、先ほどの卑怯云々はどうしたのかと見ていると「早くしてください」と催促の言葉が、彼女の綺麗な形をした唇から紡がれた。実を言うと、理由などなく。ただただ、彼女を見ていたかったと言ったら、きっと怒るのだろう。四番隊は暇ではないのだ。その暇をぬって来てくれたのに、1時間も待たせられたら不機嫌になるのも当然だと思えた。
「えと…卯ノ花さんに言いたいことがあって…」
「ですから、それは、なんなのかと、聞いているのですが」
苛立っているのか。その一言を、ゆっくりとこまぎれにするようにして言葉を紡いだのは卯ノ花だ。一瞬狼狽えたが、すぐに立ち直した。