BSRで小倉百人一首歌物語
第41首 恋すてふ(第40首・第63首の政宗側のお話)
「政宗様、少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」
襖の向こうからやけに改まった様子で小十郎が尋ねる。部屋に入るように促すと、失礼します、と襖を開ける。
「お休みのところ申し訳ありません」
「No problem。で、何の用だ?」
「はい。実は、ある噂を耳にいたしました」
「噂?どんな噂だ?」
政宗は軽く眉を上げる。城内の年寄りたちが政宗について良からぬ噂を立てることは少なくないのだが、そのたびに小十郎がうまく立ち回って処理してくれる。その小十郎がこうして政宗に相談しに来るのだから、今回の噂は相当にやっかいなものらしい。
少し困り顔で、小十郎が答える。
「はい。それが…、殿は随分と真田幸村にご執心のようだ、と」
「Ah…なるほど」
年寄りたちの厭味ったらしい表情が目に浮かぶようだ。
「口さがない連中の言うことですので、放っておいてもよいかとは思いますが…一応ご報告を、と」
「一応、ね。でも、お前もそのことについてはっきりさせとかねぇと、って思ったんだろ?」
小十郎は押し黙る。やはり小十郎自身も、少なからず政宗と幸村の関係については思うところがあったのだろう。政宗は苦笑する。
「気にするな小十郎。そりゃ家臣としては当然の心配だろうさ」
「…申し訳ありません」
「実はそれについては俺もずっと考えていた。…今後、真田との私的な交流は絶つ」
項垂れていた小十郎が顔を上げ、政宗を見据える。
「よろしいのですか?」
「かまわねぇ」
「…でしたら、そのような顔をなさらないでください」
張り付かせた余裕の表情をいとも容易く見破られ、政宗は困ったように笑った。
「やっぱりお前には隠し事はできねぇな」
「幼い頃より、お傍で見てきましたので」
「…今だけ許せ、小十郎」
隻眼から、涙が溢れる。抱えた想いの全てを流し去るかのように。
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
作品名:BSRで小倉百人一首歌物語 作家名:柳田吟