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玉木 たまえ
玉木 たまえ
novelistID. 21386
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メロヘロ

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「タカヤ、あれ!」
ショッピングモールの一階に下りると、榛名がアイスクリームショップを指差した。
「今日、サービスデーだから、五個で六百円だって! アイス食おーぜ!」
「いーっすけど、でも五個もいらねーです」
「なんでー。いっぱい食べれた方が楽しいじゃん」
「そういうもんかあ?」
「そういうもんそういうもん。あ、タカヤのおごりな」
 榛名は当たり前のように言った。
「なんで!」
「おごって欲しいから」
「それなら、オレだっておごって欲しいです」
「タカヤは今日はダメ。今日はオレの日なの」
「なんだよ、それ」
 阿部は、むい、と口を曲げた。
「なー、なー、なー。いいだろ? タカヤの日には、オレがもっといいもんあげるし」
「オレの日っていつだよ」
「あ、そうだった。そういえば聞いたことなかったよな? いつなんだ?」
 無邪気な顔で聞かれて、阿部は憮然とした。
「そんなの、知るわけないでしょ」
「お前知らないの? すげー! 自分に無関心すぎるだろ! まあいいや、今度タカヤの母ちゃんに聞いとく。だから、な、今日はおごってくれんだろ?」
 一体なんだろう、この話のつながらなさは。阿部は途方に暮れた。出会ってからは三年以上経ち、付き合い始めて数ヶ月だが、榛名とは頻繁に話が噛み合わない。
 なあなあとシャツの袖を引いてねだられ、阿部はとうとう根負けして、わかりましたと頷いた。
「やった、タカヤのおごり!」
 そう言うと、店内へ飛び込んでいった。阿部はそれを追いかけようとし、そういえばと財布を取り出して中身を確認する。もし、レジまで行ってお金が足りないなんてことになったら格好悪い。 幸い、ぎりぎり間に合うだけのお金があったので、改めて、店内へと足を向けた。
すると、にこにこと人好きのする笑顔を浮かべて、店員の女性に話しかけている榛名の姿が目に入った。そして、ふいに榛名は、彼女に顔を近づけた。内緒話をする時のように手で口元を隠して、耳打ちをしている。店員の女性は、少し驚いた顔をしたあと、思わずといった風に笑い出した。
 阿部は、それをぼんやり見ながら、相変わらずだな、と思った。榛名という男は、天性の、たらし、なのだ。
 本人が自覚しているにせよ、無自覚にせよ、榛名はただいるだけで、人を惹きつける何かを持っている。榛名が人を口説くには、カードすら切る必要がない。ただ、お前はオレの言うこと聞くだろう、と当たり前の顔をして言えばいいのだ。お前はオレに惚れているのだから、と。
 阿部は、自分もまた、たらされた一人だと自覚していた。
「タカヤ! 早く来いよ!」
 入り口で立ち止まったままの阿部を、榛名が呼ぶ。阿部が自分のすぐ隣まで着たことを確認してから、榛名は注文を始めた。
「えっとー、ストロベリーとー、チョコチップとー、クッキー&チョコとー……」
 阿部を待っている間に既に目星をつけていたのだろう。榛名はさほど迷うこともなく五種類のアイスを指定した。店員の女性が、ひとつひとつ掬いとって、カップの中に移していくのを、わくわくとした目で見守ってから、榛名は言った。
「お前何にする?」
 阿部も、迷わなかった。
「バニラで」
「バニラと?」
「だからバニラで」
 阿部の言葉に、店員が少し困惑したような笑顔を浮かべて訪ねた。
「シングルでのご注文でしょうか?」
「え? 五個で六百円なんですよね?」
「はい」
「だから、この人とおんなじ、その五個で六百円ので、全部バニラで」
 店員が、かしこまりました、と答えるのを聞いて、阿部はレジへと進んだ。その阿部を追いかけて、榛名が大声で言う。
「ありえねー! なんで全部おんなじのにすんの? 意味ねーじゃん!」
「うっせえなあ……」
「五個! 頼めるんだぞ! 五個!」
 手をパーの形に開いて榛名は力説した。
「だから、五個頼んだでしょ。バニラ五個」
「ちーがーう! せっかく色んな種類選べるんだからさあ、楽しみたいじゃん! お前これ頼んだの? じゃあオレはこっちにしよ、とか、あ、それオレも食いたかった! あとでひと口ちょーだい、とか、あるじゃん! 色々楽しいやりとりが」
「それはそれは、スミマセンデシタ」
 まさか、アイスクリームを選ぶだけでこれほど文句を言われるとは思わなかった阿部は、いささか呆れた顔で榛名に言った。
「あー、すげえつまんねー。楽しみ一個減った」
 散々な言いようだ。これ以上続くようだったら、楽しみ以前にこれは誰のおごりだったか、ということを思い出してもらおうと思った阿部だったが、それを口にする前に榛名が、まあ、と続けた。
「そういうんも、タカヤっぽいから、しょうがねーか」
 あーあ、とため息をついて、それから榛名は笑った。その顔を見た時、まるで、榛名に触れられた時のような、奇妙な感覚が呼び起こされた。甘やかな、胸のうずき。いつからか、榛名が阿部に与えるようになったもの。
 それを振り払うように、阿部はレジに向き直って、会計を済ませた。二人分の代金を払った財布はもうほとんど空っぽだ。軽くなった財布の代わりに、榛名が阿部の分のカップを手渡して、二人はそろってそのまま店を出た。
作品名:メロヘロ 作家名:玉木 たまえ