二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
玉木 たまえ
玉木 たまえ
novelistID. 21386
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

メロヘロ

INDEX|3ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 


 利き手にピンクのプラスチックスプーンを、反対の手にカップを持って、アイスクリームを口に運びながら、二人は駅までの道を歩いた。
 しばらくは食べるのに集中していたが、阿部が思い出して、さっきの、と声を上げた。
「何か参考になりました?」
「ふぁにふぁ」
 スプーンをくわえたままで榛名は答えた。街灯の明かりの下で、鮮やかな色のスプーンが、ぴこぴこと上下している。
「すげ熱心に読んでたでしょ、雑誌」
「ふぁー」
 間抜けな声で返事をしてから、左手でスプーンを引き抜いた。
「まー、それなりに?」
「今の時期に練習メニュー組み直してて、夏、間に合うんすか?」
「うるせーよ。そりゃ、一年の頭っからぶれねー方針で出来りゃ理想だけどよ。状況に応じてテキギ改善をハカるのも大事だろうが」
「ま、そうですよね」
 武蔵野高校野球部は、前年度の活躍を受けて、今年は予想以上の人数の新入部員を迎えた。部員数が増加したことで、今まで通りの練習メニューでは色々と不都合が出てきたらしい。そのため、榛名はこのところ、ない頭を使って、新しいメニューを考えているのだそうだ。
「がんばってくださーい、榛名キャプテーン」
 阿部が棒読みでそう言うと、榛名は寒くもないのにぶるぶると体を震わせた。
「お前に言われっと、すげー気持ち悪い」
 心底嫌そうに首をすくめる榛名に、阿部は少し笑った。
「でも、元希さんがキャプテンて、なんか未だに変な感じしますね。てっきり秋丸さんがやると思ってたし」
「あいつにまかせられっかよ! 最近すこーし、マシにはなったけどよ! あんなやる気ないのがてっぺんにいて、部がまとまるかっつの」
「確かに、そんな風に見える人ではありますけど」
 秋丸に対しての阿部の印象は、穏やかそうな中に、どこか飄々としたところのある人物、というものだった。
 ある時、榛名と秋丸と阿部の三人で会って話したことがあった。榛名が、トイレにと席を外している間に、秋丸は笑いながら言っていた。
 榛名は、色んな影響力があるよね。それを、良い方に吸収して満足してたのが、先輩たち。それから、それを受け取って最大限屈折したのが、俺。
 タカヤくんは、どうかな?
 阿部が答える前に榛名が戻ってきてしまったので、それきり話の続きをしたことはない。けれども、もしあと少し榛名が帰ってくるのが遅かったとしても、自分が何か答えられたとは、阿部には思えなかった。
「なー、それ、ちょっとくれ」
 ひょいと横から伸びてきた手に、それまで自分の考えに入り込んでいた阿部は反応が遅れた。
 気がついた時には、榛名のスプーンが、阿部の手にしているカップの中からバニラアイスクリームを掬いとっていた。
「あ!! なにすんだよ!」 
「んだよ、そんなに怒んなくっても、ちゃんとお返しやるって。ほれ」
 榛名は、なだめるような調子でそう言って、自分のカップから、ストロベリーアイスクリームを阿部のカップへと移した。阿部は、まじまじと手元をのぞき込む。真っ白だったカップの中に、イチゴ色が混ざっていた。
「信……っじらんねえ! 何で勝手に入れるんですか!?」
 阿部がそう訴えると、榛名はけろりとした顔で返した。
「いーじゃん。バニラだけだと寂しかったろ?」
「俺は! バニラ食う時はバニラだけ! 食べたいんです! 他の味と混ざったらマズイじゃないですか!」
 そう、それは阿部の中で大きな拘りだった。くだらないと言えばくだらない拘りだが、こうだと決めていることを他人に乱されるのは、気分が良くない。
 苛立つ阿部とは正反対に、榛名はどこまでもマイペースだった。おいしそうに、何種類かのアイスクリームを一度に頬張っている。
「あー、うめー。ほら、まずくねーって。お前、それ食わず嫌いなんじゃねーの? もー高校生なんだから、好き嫌いしちゃダメだぞ」
 そう言うと、榛名はストロベリーとバニラを一緒に掬ったスプーンを阿部の口元にもっていった。
「はい、あーん」
「いらねーっての!」
「いいから、食ってみろって」
「い・や・です!」
 阿部の唇をこじ開けるようにスプーンを押しつける榛名と、その榛名の腕を押し返そうとする阿部とで、もみ合いになった。しばらく押し合っていた二人だったが、ついに均衡がやぶれ、その勢いで阿部の手の中から、まだ中身の入っているカップが飛び出していった。
「あ」
 声を上げた時には、もう遅い。アイスクリームにささっていたピンク色のスプーンごと、道路の上に音を立てて落下した。
「あーっ、もったいねえ!」
 榛名はそう叫んで、しゃがみ込んだ。
「タカヤが暴れっからー」
「はあ?」
 オレのせいかよ、と苛立ちがこみ上げた。榛名は、阿部のそんな内心には全く気がつかない様子で、ぽんと両膝を叩いて立ち上がる。
「しょうがねえなあ。じゃあ、ちょっとだけ、オレの分けてやるよ。あーん、しな」
「いや、だからいいですって」
「遠慮すんなよ。オレ、今日はいー気分で、心が広いの。貸しにしたりなんかしねえぞ?」
 言葉の通り、榛名の顔は機嫌良さそうに輝いていた。急激に斜めになっていく阿部の機嫌とは正反対だ。
「そもそも、それ、オレがおごったんでしょうが。貸しにするとかどんだけ図々しいんだよ」
「だからしねーって。つうか、なんでさっきからそんな拒否んの? モトキ傷つくー」
 言いながら、榛名は冗談めかして体をくねらせた。阿部は、怒鳴り出さないように精一杯に自分を押しとどめる。別に、喧嘩をしたくて会っているわけじゃないのだ。先ほどまでは、自分だって、榛名といるのを楽しんでいたのだし、出来ればこの苛立ちもやりすごして和やかに分かれたい。
 阿部が内心の葛藤と戦っている間、榛名は榛名でろくでもないことを考えていたらしかった。わかった、と手を叩いて、笑いながら言う。
「照れてんだろー。間接ちゅーだから」
 阿部は、榛名の能天気に見える笑顔を見上げて、長い長い息を吐いた。
「……なんっつうか、オレらって、合わないっすよね」
「は? どこが?」
「ほら。通じてねーし」
 付き合いを続けるうちに、阿部は、榛名と自分とのずれに、幾度もぶつかってきた。
「何が言いてーの?」
 心底不思議そうな顔をして榛名が言う。榛名は、感じていないのだろうか。こんな風に思うのは自分ばかりなのだろうか。
「……なんで付き合ってんだろ」
 阿部の口から、思わずこぼれた。恋人同士だなんて、もっと気が合う者同士がなるものではないのだろうか。阿部と榛名は、付き合ったって、沢山会ったって、セックスをしてさえ、ちっとも分かりあえた気がしない。
「お前、本気で言ってんの?」
 頭の上から聞こえてきた声に、阿部は思わず顔をあげた。榛名の声も、表情も、それまでの調子とはがらりと変わっていた。
「別れたい、って言うのかよ」
 急に転がりだした事態に阿部は混乱した。榛名に別れを切り出すつもりなど、まるでない。けれども、自分のこれまでの言葉を、改めて思い返してみれば、そうとられてもおかしくはないことに気がついた。
作品名:メロヘロ 作家名:玉木 たまえ