曜日男・他
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タカヤと一緒にいると、中をあけて覗いて見たくなる。
前に秋丸にそう言ったら、眼鏡の奥の目をぎょっと丸くして、変なもの見るみたいにして俺を見た。
「犯罪には走るなよ、頼むから」
あんまり聞くことがないくらい真剣な声でそう言ってきた。
ばーか、ほんとにはやんねーよ!
そんなことしたら、タカヤともう一緒にいられないじゃん。そのくらいのこと、考えたらすぐに分かるのに、秋丸はとってもバカだと俺は思う。
でも、ほんとにはしないけど、想像するのは自由だ。だから俺は隣を歩くタカヤを見下ろして考える。
ああ、こん中見てみてえなあ。
だって、きっとタカヤの中はいっぱいいいものがつまってるんだ。だからあんなに、抱きしめたら気持ちがいいし、いい匂いがするし、もっともっとって触りたくなる。
どっかで、人間の脳みそは豆腐みたいに柔らかいんだって聞いたことがある。
この頭を切り開いて、脳みそ取り出して手のひらにのせたら、豆腐みたいににふるふる震えるんかなあ。
そう考えると、どきどきして止まらない。
強く触れば壊れてしまいそうなもろい脳みそで、タカヤはいっつも俺んこと考えてるんだって、そう思ったらなんだかたまらない。
ずーっとそんなことを思ってタカヤの頭を見てたから、タカヤが不思議そうに俺を見上げてきた。
どうしたんですか、って聞いてくる。
俺はタカヤのその言葉より、その時見えた口ん中の赤さがキレーだなってそっちの方が気になって、返事ができなかった。
なあタカヤ、お前ん中、どうなってんの?
見せてって頼んだら、お前、見せてくれる?
でも俺は言わない。もし、いいですよ、ってタカヤに言われたら、困ってしまうから。だって、絶対に我慢できるって自信がちょっとない。
タカヤは俺の答えを待ってまだじっとこっちを見ていた。
「なー、タカヤ。俺がなんか言っても、うんって言うなよ」
「なんですか、それ」
「いーから、お前は俺がなんか言ったら、ちゃんと駄目ですって言え」
タカヤは呆れた顔をしたけど、なんか仕方ないなっていう風にタメイキ付いてから頷いた。
「じゃー、帰るぞ。ほら、手」
「駄目です」
「はあ? なんでだよ」
「あんたこそなんでだよ。自分で駄目って言えっつったでしょーが」
タカヤはぷりぷり怒り出しだ。こいつって、すごく短気だ。
「あー、さっきのは、今のじゃない。別ん時に、駄目って言うんだよ」
「別の時っていつだよ」
「だから、うん、って言ったら駄目なとき」
「意味わかんねえ……」
そう言うとタカヤは力抜けたみたいに地面にしゃがみこんだ。おーい、大丈夫かー。俺は一緒になってしゃがんでやる。
「ターカヤ」
うつむいた顔をのぞきこんで名前を呼んだら、タカヤは顔を上げてにらんできた。
「分かりました。あんたのわがままは、聞きません」
「えー、なんだよ」
「だから、俺は俺の気持ちで全部決めます。あんたが駄目って言えって言っても、俺がいいときはいいって言うし、その逆もおんなじ」
「……それだと、俺すっげえ困るんだけど」
俺がぎゅーって眉を寄せて言ってんのに、タカヤは知りませんよって言ってさっさと一人で立ち上がる。タカヤって薄情だ。きっと今のタカヤん中には冷たい水がいっぱい流れてるのに違いない。触ったらひやってするみたいな冷たい冷たい水。
困ってうんうん言ってる俺の前で、ひらひらっと何かが動いた。タカヤの手のひらだ。
「帰りますよ」
「……さっき、駄目っつったくせに」
「俺の気持ちで決めるって言ったでしょ」
一緒に帰りましょう、って言われたら、俺はバカみたいにうんって頷いてた。目の前の手を握る。冷たいはずのタカヤの手はあったかい。
この手のあったかさがなくなるのは、やっぱ駄目だ。
引かれるままに立ち上がりながら、そう思った。
「なー、じゃあさ、さっきのはなしにする。その代わり、ずっと手ぇ離すなよ」
「あんたの指図は受けません」
タカヤがいじわるを言うので、俺はつないだ手に思い切り力を込めてやった。痛そうに顔をゆがめたあと、タカヤはすぐに笑って言った。
「でも、俺がそうしたいなら、話は別です」
軽く力を込めて握り返してくるタカヤの笑顔はなんだか綺麗で、やっぱりその中を開けてみたくなって、俺はすっかり困ってしまったのだった。