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玉木 たまえ
玉木 たまえ
novelistID. 21386
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曜日男・他

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-3-
 俺、調べたんだけど、と言って榛名が男同士のやり方について説明してきた時には、これは別れるしかない、と阿部は思った。
 みっともなく足を開いて、入りそうもない場所に男のものを突っ込ませるなんて、冗談じゃない。
 キスだけでも、掻きっこでもいいじゃないか、どうしてもと言うなら口でする、とまで言ったのに、榛名は頑として譲らなかった。何がなんでもタカヤとセックスする、と言ってきかない。
 腰を高く持ち上げられて、ひっくり返った蛙かなにかのような格好をさせられた自分を見下ろした時の心境は、恥ずかしくてしにたい、だった。
 もういい。今死ぬ。すぐ死ぬ。いいから俺を殺してくれ。
 そう言ったら、榛名は「ばか! 死ぬならセックスしてからじゃねーと勿体ねーだろ!」と真剣に忠告してきた。
 ああ、くっそ、別れてえ。
 そう思っているのに、脚は榛名に掴まれてるし、なんか色々触られて勃起してるし、股間は粘液やらローションやらでべちゃべちゃだし、最低だった。
「タカヤ、気持ちいーか?」
「……気持ち悪いです。最悪に」
 尻の穴に指突っ込まれて気持ちいいわけないだろう、と阿部は思うのに、榛名はあれ? なんて無邪気な顔をしている。
「なんかさー、どっかにすげえ気持ちいいとこがあるんだって」
 言いながらぐちゃぐちゃと中に入れた指を動かしている。内壁をなでられて感じたのは悪寒だった。
「も……、気持ちいいとか、どーでもいいから、早く終わらせましょう」
 突っ込んで、それで榛名がイけるのかどうかまでは知らないが、とにかくそれで気が済むならやってしまおう。そう思って言った言葉が、榛名にはひどく不満らしかった。
「お前さ、なんでそう非協力的なわけ?」
「んなの、セックスなんかしたくないからに決まってるでしょうが」
「俺はしたい」
「だから、あんたがあんまり言うから、付き合ってやってんでしょ! 早く入れろっつってんだよ! そんでさっさと終わらせろ!」
 思わず叫ぶと、榛名の表情が変わった。それまでしきりに動かしていた指も引き抜いてしまう。突然に内部を擦って出て行く指の感触に、阿部は知らず足を震わせた。
「やめた」
 そう言って、覆いかぶさっていた体を起こして榛名は長い息をつく。
「はああ?」
「お前、文句ばっかで、うっせーし。そんなにヤなら、もうしねえ。タカヤとセックスなんか、一生しねー」
 そっぽを向いてそう言う榛名に、阿部は思わず叫んだ。
「ざっけんな! こんな格好させておいて、やめた、だあ? やめるくらいなら最初からすんな! この、馬鹿!」
 いきり立ってそう叫ぶ姿は、まだ股間が丸出しのままで、ひどくみっともない。そう、こんなみっともない状態にまでしておいて、途中で投げ出すなんて、到底許せる話ではなかった。
「おめーがしたくねーしたくねーって萎えることばっか言うからいけねーんだろ! 馬鹿はそっちだ、バカ! バカタカヤ!」
「それを承知でやりてーやりてー言ったのは元希さんだろ! 今さら文句言ってんじゃねーよ!」
「だって、お前全然好きじゃねーじゃん! 俺のこと」
「はあ?」
 今、何て言った? 耳を疑って阿部は訝しげな表情を浮かべた。
「……好きなら、さっさと終わらせろとか、いわねーだろ」
「それは……」
 だって、本当に気持ちが悪いし、恥ずかしいし、いたたまれないのだ。そんな姿を他でもない榛名に見られているというのが、とてもつらい。
「俺、タカヤとえっちすんの、すげー楽しみにしてたのに。いっぱい触って、いっぱい気持ちよくなるんだーって。タカヤも気持ちよくするんだーって。なのにさあ……」
 すっかりしょげてしまった榛名の様子を見ると、やわな心は勝手に痛みを覚えてしまう。阿部は昔から、榛名を可哀相にはできない。気がつけば言葉がひとりでに口をついて出てくる。
「そんなの……、俺だって、あんたがしたいっていうなら、いいって思ったんだよ。あんたが気持ちいいなら、それで……って」
「タカヤ」
 榛名が顔を上げる。阿部は、今更ながらにむき出しのままの下半身に気づいて遅まきながらシーツを手繰り寄せた。
「でもっ、想像してたのより、全然……っ、恥ずかしいし、みっともねえし……」
「みっともなくねえよ」
「あんたは、そりゃヤる側なんだから、なんとでも言えるでしょ」
 本当は、自分が突っ込まれる側になることだって、承服しかねるのだ。でも、それを受け入れたのも、何もかも、目の前の男に惚れているからだ。
 くそ、と舌打ちしたい気持ちになる。俺があんたを好きじゃないとか、ありえねーだろ。それくらい分かれ、馬鹿、と思う。
 唇を噛んで黙りこんでしまった阿部の頭を、榛名がそっと撫でた。
「なー、じゃあ、どうすりゃいい? タカヤ、どうしたら俺とセックスしたいって、思うんだ?」
 怒んねーから、言ってみ?
 大きな手で頭を撫でながらそう言われれば、気持ちの尖っていた部分がぐずぐずと崩れていってしまう。阿部は、榛名の目を見た。その目が、ちょっとどうかと思うほど優しかったので、阿部の唇は自然と動いた。
「あんたが……」
「ん」
「元希さんが、俺とおなじくらい、みっともなくなってくれたら。そしたら、セックスしても、いいです」
 榛名はまたたいた。
「俺のこんなとこ見て、コーフンして、ちんこおっ立てて、そんで、入れたいって。入れたい入れたいって言えるなら、俺も、もっと前向きにセックスを考えます」
 しごく真面目な表情で言う阿部に、榛名は、思わず破顔した。両手を阿部の体にまわして、骨も軋めとばかりにぎゅうと抱きしめる。
「うん。じゃあ、しよー、タカヤ」
 耳をくすぐる声に阿部は覚悟の息を吐いて、足を開いて榛名を誘った。
作品名:曜日男・他 作家名:玉木 たまえ