【かいねこ】鳥籠姫
玉露といろはが帰った後、カイトは再び鳥かごに入れられた。
キャンディが、いつものように香を炊きながら、
「今日のお客様は、あなたにとっても特別だったのかしら?何だか、とても幸せそうね」
その言葉に、カイトは悲しげに微笑み、
「幸せでもあり、不幸でもあるのでしょうね。僕が今まで知りたいと思ったこと、知りもしなかったことを、彼女は教えてくれました。籠の外には、想像もしなかった世界が広がっているけれど、僕にはそれを見ることが出来ない」
ふと目を伏せ、諦めたような口調で続ける。
「僕は、童話の鳥かご姫と同じですね。外に出たら、きっと、悲劇的な結末を迎えるのでしょう」
キャンディは、無言で香炉をいじっていたが、やがてぽつりと言った。
「私も同じだわ。私も、生まれた村から出ることなんて、思いもしなかった。あの村で生まれて、結婚して、子供が出来て、おばあさんになっても、ずっと村にいるのだと思ってた。でも、夫に出会って、二人で町に出てきたの。楽しかったわ。彼には夢があってね。貧しくても、二人で支えあって生きていければ、それで良かったの。でもね、夫は病に倒れて、天に召されてしまった。薬を買うお金もなかったのよ、私達」
キャンディは俯き、静かな声で続ける。
「今でも思うわ。あの時、村を出なければ良かったと。鳥かごの中にいれば、ずっと夢を見ていられたのかも」
「・・・・・・・・・・・・」
慰めの言葉を思いつかず、カイトは黙って口を閉ざした。
香炉から漂う煙が、音もなく部屋の中を満たしていく。