【かいねこ】鳥籠姫
道具を片づけ、窓を開けると、「ごゆっくり」と言って、キャンディは執事とともに出ていった。
いろはは、二人がいなくなってから、鳥かごに駆け寄り、
「カイトさん!マスターに、カイトさんのことお願いしてみました!今すぐじゃないけど、マスターが何とかしてくれるそうです!」
いろはの言葉に、カイトは驚いて目を見開く。
「本当に?えっ・・・・・・本気で、君のマスターは、僕を?」
「はい!マスターは嘘を吐きません!だから、もうしばらく待ってもらえますか?」
「え?ああ、もちろん。いつか終わりがあるのなら、幾らでも待てるよ」
カイトは鳥かごの隙間から手を伸ばし、いろはの手を取り、
「ありがとう。まさか、本当になるとは思わなかった。君は、本物の「闇の王子」だね」
「そ、そんなことないです!実際に何かしてくれるのは、マスターですし」
「君がお願いしたから、彼は動いてくれたのでしょう?君に会えなかったら、僕は希望すら持てなかった。ありがとう、いろはさん」
いろはの手を引き寄せ、自分の頬に当てた。
カイトの突然の行動に、いろはは驚き頬を染めるが、カイトは構わず、いろはの手に口づける。
「客間で会った時、もっと君に触れれば良かった。僕が鳥かごから出ても、いろはさんは、僕の側にいてくれる?」
「えっ、あ、はい!も、もちろんです!」
「ありがとう。僕も君の側にいたい。それが叶うなら、何年でも待つよ」
いろはが、もう片方の手を差し入れてきたので、カイトはその手を取って、指を絡めた。
「カイトさん、鳥かご姫は、籠から出て幸せに暮らすんです。大丈夫です。必ず、マスターが出してくれますから」
「うん。僕は、いろはさんを信じてる。それに、君のマスターも」
そう言って、カイトはくすっと笑うと、
「キャンディにーーさっきいた女の人。秘書をしてるんだーー彼女に聞いたんだけど、君のマスターは、随分変わった人みたいだね?でも、凄く優秀でもあるって」
「変わってますか?とても優しい人です。カイトさんも、ちゃんと話せば、分かると思います」
「そうだね。君のマスターとも、話してみたいな。ねえ、いろはさんはどうして、魔道士になろうと思ったの?君のマスターが言ったの?」
「え?えっと、私からお願いしたんです。少しでも、マスターのお役に立てたらいいなって。今はまだ、余計に迷惑掛けてますけど」
それから、いろはは聞かれるままに、修行のことや玉露のことなどを話す。
話に夢中になっていたら、遠慮がちなノックの音がして、外からキャンディの声が聞こえた。
「お邪魔してごめんなさい。今、玉露様から電話が来て、いろはさんがいるか、聞かれたのだけれど」
玉露の名を聞いて、いろはは、はじかれたように立ち上がる。
「ご、ごめんなさい!すぐに行きます!!あ、か、カイトさん、長くお邪魔してごめんなさい!!」
カイトは、慌てて扉に向かおうとするいろはの服を掴み、
「また来てくれる?」
「え?あ、もちろんです!今度は、ちゃんとマスターに言ってから来ます!」
ばたばたと出ていくいろはを、カイトは名残惜しそうに見送った。