【かいねこ】鳥籠姫
「あなたなんか、マスターが来てむぐっ!!」
「静かにしててね。中断したら、取り返しがつかないから」
口の中に布を押し込められ、いろはは不明瞭な声を上げながら、身を捩る。
キャンディは、もう一度部屋の中を点検した後、魔道書を手に魔法陣の前に立った。
大きく息を吐き、乾いた唇を舐める。
数え切れないほど目を通したページを開き、書かれている呪文を一語一句正確に詠唱し始めた。
儀式が成功すれば、夫は帰ってくる。
それだけが、キャンディの生きる支えだった。
複雑な語句を、違えることなく紡ぎ続ける。
床に描かれた魔法陣が、ぼんやりとした光を帯び始め、捻れた文様の上に、青白い炎が閃いた。
魔法陣を入り口に、魔界への通路を開く。魔界に住む魔物を呼び出し、生け贄と引き替えに契約を取り交わす。
危険な賭だが、彼女にとっては最後の希望でもあった。
青白い炎が魔法陣をなぞり、部屋全体を照らし出す。
炎が中心へと迫り、キャンディの唱える呪文が完成した瞬間、目もくらむほどの光が溢れだした。
「んっ!!」
驚いたいろはが声を上げ、固く目をつぶる。
キャンディは手で影を作りながら、光の中に目を凝らす。
目もくらむほどの輝きの中、
「よお、邪魔するぜ」
玉露とカイトが、青白い炎を纏った異形の魔物とともに現れた。