【かいねこ】鳥籠姫
玉露がどうあっても書斎から動かない様子なので、いろははアッサムを客間に通し、お茶を運んだ。
「アッサムさん、どうぞ」
「ありがとー。修行の方はどう?進んでる?」
「はい。今は、あれです、あのー、別々の場所に魔法陣を作って、その間を行ったり来たりする」
「ああ、移動の魔法陣か。あれは出口の設定を間違えると、とんでもないところに出たりするから、気をつけてね」
「はい。今は、マスターが作ってくれた魔法陣を移動する練習をしています」
「ああ、それなら大丈夫だね。それじゃ、君のマスターの機嫌が良さそうだったら、以前頼んだやつの修理が終わってるか、聞いてくれないかな」
「はい。お待ちください」
いろはが客間から出て行った後、何の気なしに周囲を見回したアッサムは、一冊の本を見つけた。
「ん、何だ?童話?」
『鳥かご姫と闇の王子』と書かれた表紙に手を伸ばした時、客間に玉露が入ってくる。
「まだいたのか」
「いたよ。てか、用事終わってねーよ」
「そうか。終わったらさっさと帰れ」
そう言って、玉露が放り投げた箱を、アッサムは慌てて受け止めた。
「あっぶな!また壊す気か!!」
「その程度で壊れるような、やわな作りはしてない」
「くそ、自分なら簡単に直せると思って」
ぶつぶつ言いながら、アッサムは手の中の箱を点検する。
精細な透かし模様に囲まれた箱の中に、ぬらりとした輝きを放つ、深紅の石が固定されていた。
その輝きに、吸い寄せられたような視線を向けるアッサムの耳元で、玉露がぱんっと手を打ち鳴らした。
「ふぎゃ!!何だよいきなり!!」
「お前が魅せられてどうする、ボケ」
玉露は、アッサムの手から箱を取り上げると、さっと布でくるむ。
「魔道具の扱いくらい、心得てると思ったのだがな。買いかぶりすぎたか」
「うっ、い、今のは、ちょっと油断しただけだ!大体、元の作りより精巧になってんじゃねーか!びっくりしただろ!!」
「それがお望みなんだろう?」
「そうだけどさ・・・・・・。まさか、ここまでの物になるとは、正直たまげたわ」
「当然だ。俺は天才だからな」
「くそっ。ムカつくけど否定できない」
玉露から布にくるまれた箱を受け取ると、アッサムは慎重に鞄にしまった。
その時、先ほど見つけた本を視界に捉える。
「お前、子供向けの本なんか持ってたんだな」
「いろはのだ」
「まあ、そうだろうとは思ったよ」
懐かしいとつぶやきながら、ぱらぱらとページをめくっていき、最後のほうで手を止めた。
「あれ?これ、何か書き直されてなくね?」
「いろはが泣くからな」
「・・・・・・・・・・・・」
アッサムは、視線を本から玉露に向けると、
「え?お前が書き換えたの?その顔で?」
「顔で書くわけないだろう。馬鹿か」
相変わらず不機嫌そうな様子に、思いっきり吹き出す。
「ほんっっと、いろはには甘いよな、お前」
「帰れ」