【かいねこ】鳥籠姫
満月の晩、カーテン越しに差し込む月明かりに照らされ、カイトは小声で歌を紡いでいた。
自由など望むべくもない、己の意志すら必要とされない鳥かごの中で、カイトに許されたのは、ただ歌うことだけ。
何時、何処で、誰から教わったのか定かではない歌を、カイトは歌い続けた。
いつもと変わらぬはずの夜に、その日はわずかな綻びが生じる。
微かな明かりが室内を照らし、続いて小さな悲鳴が飛び込んできた。
カイトはぎょっとして歌を止め、顔を振り向けると、見知らぬ少女が床に座り込んでいる。
相手も気づいたのか、カイトと、彼を取り巻く鳥かごに目を見張り、
「ほ、本物の鳥かご姫だ・・・・・・」
と呟いた。
カイトが声を掛けるより早く、我に返った少女は、慌てて窓に走りよる。
「待って!」
反射的に隙間から手を差し伸べ、カイトは少女を呼び止めた。
足を止め、恐る恐る振り向いた少女に、カイトはすがるような視線を向け、
「行かないで。君は誰?僕と同じ人形なの?」
「え、あ、あの・・・・・・私・・・・・・」
おどおどと、窓とカイトを交互に見やる相手に、カイトは懇願するように、
「名前は?せめて、名前だけでも教えて。僕はカイト。君は?」
「い、いろは」
「いろは?それが君の名前?」
こくりと頷きながら、いろはは、そろそろと窓に近寄る。
「あの、私、帰らないと」
「待って。お願い、もう少しだけここにいて。僕以外の人形に、初めて会えたんだ・・・・・・。君の話を聞かせて。マスターは?一緒じゃないの?」
「あの、わ、私、魔法の練習をしてて、それで」
「魔法?それじゃ、さっきのは移動の魔法陣?君は、魔法が使えるの?」
カイトが驚いて聞くと、いろはは何度も頷いて、
「はいっ!マスターが教えてくれるんです!私のマスターは凄い人なんです!」
思わず声が高くなり、いろはは、慌てて自分の口を押さえた。