【かいねこ】鳥籠姫
「大丈夫。扉が閉まっているから、音は漏れないよ。でも、念の為、もっと近くに来て欲しいな。凄い人なんだね、君のマスターは」
「はいっ。マスターは、天才魔道士なんですっ」
いそいそといろははカイトの元に近寄ると、玉露がいかに凄いかを、身振り手振りで説明しだす。
カイトは、にこにことそれを聞き、
「本当に凄いね、君のマスターは。もっと教えて欲しいな、マスターのことや、君のことを」
促されるままに、いろはは、玉露が異国から来た魔道士で、町外れの屋敷に住んでいること、自分は玉露の作った人形で、魔法の修行をしていることを話した。
「そう。君は自由に動き回れるんだね。羨ましいな」
「カイトさんは、鳥かごから出ないのですか?」
「出ないよ。必要がないから。お客が来たら、歌を聞かせるんだ。それが僕の役目。他のことは、望まれてない」
いろはは、もじもじと身をよじらせ、
「あのぅ、カイトさん、私も、カイトさんの歌が、聞いてみたいです」
カイトは、一瞬驚いた顔をしたが、ふっと相好を崩し、
「いいよ。どんな歌が好き?」
「どんな歌でもいいです!カイトさんの好きな歌で」
「そう?それじゃあ」
いつも口ずさんでいる歌を、カイトは歌いした。
その澄んだ歌声に、いろははうっとりと耳を傾ける。
歌声が終わる頃、部屋の中がうっすらと明るくなっていることに気がつき、いろはは慌てて立ち上がった。
「ご、ごめんなさい!もう帰らないと!朝になったら、マスターが起きて来ちゃう!!」
あたふたと窓辺へ走るいろはに、カイトは急いで声を掛ける。
「待って!また会いに来てくれる?」
いろはは、窓にかけた手を止めて振り向き、少し考えてから、
「ああ、あなたがそれを望んで下さるなら」
芝居がかった調子で言うと、窓を開けて外に滑り出た。