【かいねこ】鳥籠姫
「あら、窓の掛け金が外れてる。嫌ねえ、夕べ締め忘れたのかしら」
カーテンを開けながら、キャンディが言う。
「すきま風なんか入らなかった?ごめんなさい、ちゃんと確かめたと思ったのに」
鳥かごに近づくと、香を炊く準備を始めるキャンディに、カイトは、
「鳥かご姫の出てくる話を知っていますか?」
突如話しかけられ、キャンディは危うく香炉を取り落としそうになった。
「え!?あ、ああ、「鳥かご姫と闇の王子」かしら?それがどうかした?」
「どういう話か、知りたいんです。本がありますか?」
キャンディは目を丸くして、カイトを見つめると、
「多分、あったはずよ。持ってきましょうか?」
「お願いします」
カイトの言葉に、腰を抜かさんばかりに驚きながら、部屋を出ていく。
程なくして、キャンディは一冊の本を手に戻ってきた。
「はい、どうぞ。あなたから何かを要求されるなんて、初めてね」
「ありがとうございます」
目を丸くしているキャンディに構わず、カイトは本を開く。
「鳥かご姫と闇の王子」というタイトルから始まって、美しく歌の上手な姫が、王様の手で鳥かごに入れられ、かごの中で歌う話が綴られていた。
ある夜、鳥かご姫の元に闇の王子が現れる。そして、夜が明けて、王子が姫の元を去る時、
「また会いに来て下さいますか?」
「ああ、あなたがそれを望んで下さるなら」
その会話に、夕べいろはが言っていたのはこれなのだと、思い当たった。
思わず笑みを浮かべるカイトに、キャンディは驚きと喜びの入り交じった声を出す。
「カイトが笑った顔、初めて見たわ」
カイトが顔を上げると、キャンディは笑顔で香を炊く準備をしていた。