【かいねこ】鳥籠姫
客間へ降りてきたディンブラは、二人連れの訪問者を物珍しげに眺める。
この地方では珍しい黒髪に、黄色みがかった肌。小柄な体に一目で魔道士と分かるローブを纏い、少々過剰とも思える装身具を身につけていた。
その全てが、精巧な魔道具であることを見抜いたディンブラは、偏屈で有名なこの男に、いかにして取り入るかを算段し始める。
男の隣で緊張している少女人形に目を遣り、ディンブラは柔らかな笑みを浮かべ、
「これは愛らしい。あなたの手によるものですかな?」
「ええ。私の身の回りの世話をさせています。いろは、ご挨拶を」
「は、初めまして」
ぎこちなく頭を下げるいろはに、ディンブラは「どうぞ気楽に」と声を掛け、椅子に腰掛けるよう勧めた。
「さて、今日はどういったご用件でしょうか?」
玉露は、ゆったりと椅子の背にもたれながら、
「こちらに、歌の上手い人形がいると聞きまして」
「ああ、カイトのことですか。あれは、私の自慢でしてね。二階に置いてありますので、どうぞ」
そう言ってディンブラは立ち上がるが、玉露は椅子に腰掛けたまま、笑みを浮かべる。
「見せていただけますかな?」
「はあ、ええ、もちろん、お望みなら・・・・・・」
相手に立ち上がる様子がないのを見て取り、ディンブラは「少々お待ちを」と言い残して、客間を出ていった。
ディンブラが出ていった後、いろはは玉露の方を向いて、
「マスター、その格好、暑くないですか?」
「暑いし重い」
「マスターがそんな格好するの、初めて見ました」
「まあな。だが、俗物相手には、格好の餌になる。あいつの物欲しげな目を見ただろう?あの様子なら、どれか一つでもくれてやると言えば、喜んで犬の真似をしてみせるだろうさ」
「真似させてどうするんですか?」
「例え話だ。お前の鳥籠姫を連れてこさせるには、このくらい必要だってことだ」
いろはが口を開く前に、ディンブラがカイトを連れて戻ってくる。
訝しげな青い目が、いろはの姿を捉えて、大きく見開かれた。
立ち上がりかけたいろはを、玉露が押さえる。