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人魚

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「ありがとう。エドワード」

 “ありがとう。エドワード”

 少年の脳裏によみがえるのは、違う声が紡ぐ同じ台詞。
「…エドワード?」
 それまでとは明らかに異なる様子で言葉を失っている少年に気付き、ロイは眉間に皺を寄せた。
「…バカ。…そんなんどうでもいいから、…早く元に戻りやがれ」
 心配そうに見つめられ、居たたまれなくなって、エドワードは顔をそらした。そして口を尖らせる。
「………どうした?」
 ロイは静かに立ちあがり、そんな、唐突に弱い様子を垣間見せた少年の頬に手を伸ばした。そっと触れて、のぞきこむ動きに合わせ、こちらを向かせる。
「…べつに…」
「君がそんな顔をするのなら、私としてはなおさら記憶を取り戻したいんだが…こればかりはそうそうご期待に添えそうもない。すまない」
 困ったように謝る男に、全く違うことを思い出して辛くなっていた少年は、え、と目を瞠った後、耐え切れず噴き出してしまう。
 今度は、それに不審を感じるのはロイの番で。
「…エドワード?」
「あ、や、その、…違う、違うんだごめん、そうじゃなくて。えーと」
 くすくす笑いながら、エドワードは違う違うと軽く訂正する。
「…あー…」
 ちょっとむすっとしているロイがまたおかしくて、なかなかエドワードは笑いを収められないでいた。…本当は、そうやって気負いなく笑っている姿が年相応で、どこか可愛くて、実は顔ほどロイもむっとしていたわけではなかった。ただ、彼が面白そうに、しかしすまなそうに謝ってくれるのが何となく嬉しくて、そんな顔をしてみせている。
「……昔さ」
「?」
「母さんが、同じこと言ったなあって」
「…お母さんが?」
 ん、と少年は、懐かしそうな、少し切なそうな目をして頷いた。
「…寝こんでた母さんの代わりに、食事とか掃除とか、初めてあんなにやった。母さんを心配させたくなかったから、アルとふたりで、ちゃんとやったんだ。そしたら、母さんがありがとう、って」
 …そう。優しかった母は、やはりそんな時も優しく微笑んでそう言ってくれた。そう言って、ふたりの頭を撫でてくれた。
 普段は思い出すこともないけれど、さっきは不意にそれを思い出した。だから、それが辛かったのに、…ロイは全然違う方向に解釈して慌てていたのだと気付けば、なんだかおかしくなってしまった。そして、辛い気持ちもどこかに行ってしまった。
 笑う少年に安堵しながら、ロイは問う。もう仏頂面はしていない。
「…お母さんは、今は?」
「死んだよ」
 さらりと、言えた。
 かえって、尋ねたロイの方が、気まずげな顔をした。
「…すまない、悪いことを…」
「いや、気にしないでくれよ。…昔の、ことだから」
 半分は自分に言い聞かせるようにして、エドワードは言った。少しの苦笑いを浮かべて。そんな少年に、ロイは黙って目を細める。それから、そっと、ためらうように金髪を撫でた。普段なら反論するところだが、エドワードはその時に限って、何も言わずされるがままになっていた。
作品名:人魚 作家名:スサ