Surprise!
すごく、すごく、ものすごく、重要な部分の記憶である。
しかし、脳を強くしぼるようにして記憶を出そうとしても出てこないのだ。
ふたりでベタベタ触れあっていたあとから今までの記憶が、綺麗さっぱり、ない。
思い出せないのだから、想像するしかない。
酔っぱらってベタベタしていた後から、ふたりとも裸で一緒に寝ていたさっきに至るまでの経緯を、ベルゼブブは想像した。
やってしまったのか……!?
酔った勢いで、やってしまったのか!?
自分と佐隈が裸で絡み合っている場面が頭に浮かんできて、いっそう体温が上昇したのを感じた。
ヒエエエエエエエーと、胸のうちで悲鳴をあげる。
どうすればいい!?
私はどうすればいいんだ!?
ベルゼブブは驚愕し、悩み、もだえる。
「……あの、ベルゼブブさん」
ふと、佐隈が声をかけてきた。
そちらを見ると、佐隈が上掛けで胸から下を隠し、恥ずかしそうに横を向いていた。
佐隈はベルゼブブのほうを見ないまま、続ける。
「服を着てください……」
そうだ、自分は全裸で、なにも隠さずに立っているのだ。
「ハ、ハイィィィィィッ!!」
ベルゼブブは朝のニワトリが鳴くように声をふりしぼって返事をした。
慌てて、床に落ちている服のほうを見る。
脱ぎ捨てられた、という状態で、服は床に散らばっている。
そこには、ベルゼブブの物だけではなくて、佐隈の着ていた物もある。
佐隈の下着も落ちている。
ヒエエエエエエエーと、また胸のうちで悲鳴をあげ、ベルゼブブは自分の着ていた物を選んで拾いあげた。
佐隈のほうを見ないようにして、服を着る。
服をすべて着てしまうと、次になにをすればいいのかわからなくて困る。
どうすればいい。
どうすればいい。
佐隈も、なにも言わない。
この沈黙が、重く、苦しい。
どうすればいいのだろうか。
「……かっ、帰ります……!」
ベルゼブブはそう叫んだ。
どうすればいいのかわからなくて、いたたまれなくて、逃げることにした。
卑怯な気がした。
けれども、他に解決策が思いつかない。
魔法陣のほうへ行き、そこに足を踏み入れると、ベルゼブブの身体はその中へと沈んでいった。