Surprise!
ベルゼブブは召喚されて、人間界へと出た。
場所は佐隈の部屋だ。
昨夜に酔っぱらった佐隈が結界の力を解いたのがまだ有効であるらしく、ベルゼブブは本来の姿のままである。
「さくまさん」
ベルゼブブはうつむき、正面に立っている佐隈に声をかける。
「よんでいただき、ありがとうございました」
魔界にもどったあと、ベルゼブブは城の自室でひとり考えた。
やがて、結論を出した。
それから、佐隈の携帯電話にメールを打って、召喚してくれるよう頼んだのだった。
ベルゼブブは佐隈から眼をそらしたまま歩きだした。
佐隈との距離を縮める。
魔法陣から出たところで、立ち止まった。
「あの、さくまさん、これを」
ベルゼブブは手に持っている物を佐隈へと差しだす。
「庭に咲いていたものです」
バラの花束だ。
「……ありがとうございます」
佐隈は落ち着いた声で礼を言いつつ、花束を受け取った。
受け取ってもらえたことに、ベルゼブブはほっとする。
だが、まだ、次がある。
次が肝心なのだ。
ベルゼブブは自分の心に喝を入れる。
ポケットから、あるものを取りだした。
それを左の手のひらの上に乗せ、右手を添えて、佐隈へと差しだした。
ケースである。
その上の部分、蓋を右手でパカッと開けた。
中には指輪が収まっている。
指輪には宝石がひとつ付いている。
宝石はダイヤモンドだ。
大粒で、無色透明、見事なカットで、キラキラと輝いている。
ベルゼブブ家に代々伝わってきた物である。
イケニエとしてベルゼブブ家に来るまえは、裕福な王家にあった物であるらしい。
「さくまさん」
ベルゼブブは意を決し、言う。
「私と結婚してください」
これが、魔界にもどって自室でひとり考えて出した結論だ。