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冬の旅

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 互いに口にしたことはないが学生時代からなんとなく波長が合う。ジェームズとは違った意味で、スネイプはルシウスが好きだった。どこか心が許せる部分があり、それはルシウスも同じらしく、学生時代にはよく外出に誘われた。そういうときは決まって不機嫌で何も喋らなかったが気にはならなかった。それより、草原に寝そべるだけで、川に釣り糸を垂れているだけで、浜辺に腰を下ろしているだけで、ルシウスの機嫌が浮上していくのが嬉しかった。ルシウスは何もできないスネイプに存在意義をくれた。
「先輩の印章を見せてくれませんか」
 ルシウスは黙って右袖を引き上げた。そこには20センチほどの大きさの黒い印章が浮き上がっており、スネイプはそれを指先でそっと撫でた。
「僕もこれくらいの大きさかな」
「おそらく」
「痛かったですか」
「ああ」
 言葉少なでも答えてくれることにホッとした。緊張していた。これから死ぬほどの痛みが訪れるのだという。心細かった。それがわかっているかのようにルシウスは返事をくれる。
「先輩」
「なんだ」
「僕が臆病者だって知ってますよね?」
「ああ」
「ここにいてくれますか」
 ルシウスは軽く何度も頷いた。
「僕、死ぬわけにはいかない」
「私もお前を殺すわけにはいかない」
 袖を下ろすとルシウスはスネイプの右手を握った。
「相当の痛みだ。叫んで暴れればいい。ここには私しかいない。すべてが終わったらお茶にしよう。キャラメルナッツのアイスクリームを買ってある」
 ルシウスには自分より年下はすべて子供だという固定観念があるようで、スネイプにはいつも甘いものを食べさせたがった。その純粋でぎこちない好意が心地よく、すすめられるままケーキ、アイスキャンディ、マシュマロ、クッキーなどいろんなものを口にした。
「嬉しいな、一緒に食べましょう」
「ああ」
「先輩」
 今話すべきことはなかったが少しずつ体に変調が現れていて怖かった。心臓がどくどくする。体温が上がっていた。ルシウスの手をぎゅっと握った。すがるものはこの手しかなかった。
「先輩、怖い」
「乗り切れ。私はここにいるから」
 安易に大丈夫だと言わないのがルシウスらしくて微笑む。
 右腕がキリキリと痛みだし、あっという間に体中に広がった。燃えるように身体が熱くなり眼の奥がじんじんした。怖くてルシウスの手を力任せに握った。ガンガンと頭が痛む。まるで金槌で殴られているかのようだ。
「ああぁっ」
 息をするたびに体中に針を刺され、手足を力任せに引っ張られている気がした。痛い、痛い、痛い。スネイプはいつしかルシウスの手を離し、ベッドの中でのたうち回っていた。
「ううぅぁ、あぁぁあぁ」
 叔父が火掻き棒を足に押し付けていた。母が鞭で背中を叩いていた。父が洗面器の水に顔を押し込んで笑った。息、息ができない。スネイプは喉をかきむしった。
「ひっ、ぁぁぁぁ」
 かわるがわる父や母が現れ、嬉々としてスネイプを貶めた。正座した膝の上に石を置かれた。縄で縛り上げられ引きずりまわされた。身体が引きちぎられるような痛みの中で何度も意識が遠のいては新しい痛みで意識を取り戻す。
「ううぅぅぁぁ、あぁあぁ」
 苦しみ続けるスネイプを前にルシウスはただ椅子に座り見守り続けるしかなかった。一時もじっとしていることのないセブルスのどこを撫で擦れば苦しみが和らぐのか。伸ばした手は肩先に触れ、頬に触れ、指先に触れ、首筋に触れたが余計に痛みを増やしそうですぐに空をさまよった。
 実際のところ、ルシウスの印章はたいした痛みを伴わず、ヴォルデモートがその場で杖を振っただけで現れた。何かがうごめくような気はしたがあっという間の出来事で、今スネイプが叫び声を上げながら苦しんでいる姿とは正反対のものだった。
 セブルスは入学当時から小さく痩せていた。眼は荒み、心はおびえ、すべてを諦めていた。だからすぐに虐待されていたのだと気がついた。血の気のない唇といつも下を向く顔。愛嬌があるわけでもないのに妙に気になった。
 上級生という立場を利用して近づき、あからさまに目をかけた。しかし言葉をかわしても視線が合わない。パーソナルスペースが広く頑なに距離をおかれる。執拗に手を洗うなどの強迫観念にかられる姿には弟がいたらこのような気持ちになるのだろうかと胸を痛ませた。人の目を見るのが苦手な癖してちらちらとルシウスと視線を合わせようと懸命に努力するセブルスがいじましく、ほうっておけなかった。
 ルシウスは自分が器用ではないことを知っていた。優しい言葉をかけてやりたくともそういった種類の言葉を知らない。やっかいなことにプライドも高い。年上に甘えればいいと、お前ならいいのだと思っていてもそれをどう伝えてよいのかわからない。結果、強引な手段を使うことになった。不要になったから、人に貰ったから、買い物のついでに、いろんな言い訳を用意して喜びそうなものを受け取らせた。子供だましの物にさえ目を輝かせる慎ましく謙虚なセブルスに贅沢をさせたかった。
 ポッターとのことを知ったときは激怒した。そこそこの人物だと認めてはいたが、どこをどうしてもあの男のことは好きになれない。しかしセブルスのことを考えれば目をつぶるしかない。笑顔が増えたことは事実だった。
 固く目を閉じ身体を丸めて唸っているスネイプの額の汗をルシウスは濡らしたタオルで拭いた。
 3年ぶりに会ってもセブルスは変わっていなかった。記憶にあるより大人びて、思ったよりのびのびとしていたが、相変わらず性格は控えめすぎるほど控えめで後ろ向きだった。
 ポッターのためにここに来たことは明らかだ。そうまでするならばどうして騎士団に入らなかったのか。相談していればこのようなことは起こるはずがない。黙って一人で決めたのだろう。それがどれだけ相手を傷つけるのかセブルスにはわかっていない。たぶん説明しても理解することはできない。
 ルシウスはそれがもどかしく『しっかりしろ』と言いたかったが、この状況を許してしまったポッターに対しては殺しても殺したりないほど怒っていた。4年も一緒にいたくせに、惚れているくせに、どうしてこのような事態を防げなかったのか。
 魔法戦争は避けられない。なのにどうして最前線にセブルスがいる。おろおろしながら息を潜めている魔法使いたちのように遠く離れた場所にいるはずだったのに。自分がセブルスと連絡を絶ったことが何の役にもたっていない。こんなことになるならば、ポッターを信頼すべきではなかった。あの男ならセブルスだけは巻き込まないだろうと思っていたからこそ、付き合いに目をつぶったというのに。
 あの方はセブルスを気に入るだろう。そばに置きたがるに違いない。あくがなく、鼻につくところもない。ポッターがいる限り裏切る心配もない。
 あの方の魔法力はおそらく魔法界で一番強い。しかし、だからこそ狙われる危険性は高い。強大な力のそばにいれば安全だとも言えないがここに来てしまった以上、あの方のそばにいるのが良いのかもしれない。戦争になってしまえば、何が起こるか想像がつかなかった。
作品名:冬の旅 作家名:かける