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冬の旅

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 しかし、今の時点で一番の気がかりは、あの方が時に残忍になることだった。突然何の落ち度もない魔法使いを血祭りにあげる。文字通り殺すのだ。そのやり方が目を背けたくなるほどの残虐さだった。血を見ないと終わらない。犠牲者は無作為に選ばれる。そんなことが定期的にあり、すでに隠しようもなくなってきた。仲間たちにもともとあったあの方への畏怖は恐怖を伴いだしている。
 セブルスが犠牲になることはないだろうが、気晴らしに半殺しにされることはあるかもしれない。ときどきセブルスは嗜虐心を煽る。自信なさげな姿が人の心を引っ掻いて苦しめたくなる。自分でさえ、時にどうしようもなく意地が悪くなるのだ。あの方にはかっこうの遊び道具になるだろう。
 ほっそりとした身体を唸り声とともにのた打ち回らせるスネイプの腕を強引に取り、ルシウスは袖をたくしあげた。そこに印章はまだない。
「うぅぅ、あぁぁあ、あぁ」
 嫌だ、嫌だと悲鳴をあげるのは過去の思い出がぶり返しているからか。やめて、ごめんなさい、とこの場に関係のない言葉が漏れるのをルシウスは苦々しく聞いていた。
 ルシウスは名門マルフォイ家の跡取りとして生まれ、ときに手をあげられるほどの厳しいしつけを受けたが、両親の愛情を疑ったことはない。マルフォイ家の一員として、将来の当主として、幼心にも誇りを持っていた。
「はぁっ、はぁっ、あぁあぁぁ」
 この苦しみは長く続くのだろう。『殺せ』という言葉まで聞いたくらいだ、気力、体力の限界まで痛みつけられるに違いない。
「お前はいつも損をする」
 呟きは悲しげに響いた。痛ましそうな表情を隠しもせずルシウスは今後のことを考え始めた。
 まずは現在の状況を把握させなくてはならない。ポッターとは敵対していることをしっかりと自覚させ、いざとなったら殺し殺されることもあるのだとおそらく持っているだろう甘い考えを根本から崩さねば。それから仲間たちの関係、立ち位置、役割。定例会議の開催から報告の仕方まで、教えることは尽きることがない。あの方の気質を知ることは身を守ることにもつながるし、よく言って聞かせなくては。
 一族のことに加え、これからはセブルスのことも気にかけていかねばならない。ルシウスには考えることが山ほどあった。


「結婚?」
 驚いたリリーの手から落ちたスコーンは赤い花柄のテーブルクロスの上を転がった。
 日々の暗い状況、遅々としてすすまない魔法使いたちの説得に嫌気がさして、リリーとアリスは息抜きがてら「クリーミーホワイト」に来ていた。
 このお店のオーナーはマダム・ホイップという人気パティシエで、特に生クリームがたっぷりのショートケーキが人気だ。ピンクと白のレースやリボンなどで飾られた店内は若い女性たちでにぎわっていた。
 数年前に発行された初のケーキ読本「マダム・ホイップの空飛ぶふわふわバースデイ」は女性に絶大な支持を受けてベストセラーになり、誰もかれもがケーキ作りに熱中していた。
「私たち、付き合いが長いからひとつの区切りにしたいの」
 丸顔が愛らしいアリスはおっとりと言った。決して美人ではないが、優しく親切な彼女は誰からも好かれていた。
 そのアリスとフランク・ロングボトムはホグワーツに入学した当初から仲が良く、自覚はなくとも今から思えば付き合っていたといえる。そのため二人の交際は9年に及んでいた。
「それに彼、子供が欲しいみたい」
 茶色のふわふわした髪を指に絡めながら嬉しそうに微笑むアリスの姿はリリーの目にもとても幸せそうにうつった。淡いやわらかな若草色のアンサンブルがよく似合っている。
 フランクは大柄な身体に似合ったおおらかな性格の魔法使いだった。とりわけ優秀な闇祓いだったがそれを鼻にかけることもなく争いごとを好まない穏やかさは自然と周りに人を引き付ける。寡黙だったが沈黙を気まずく感じさせないところはさすがだった。
「私も子供が欲しいの。男の子も女の子もたくさん」
 アリスは自分のスコーンに生クリームを塗ってリリーに差し出した。
「あ、ありがとう。結婚には私も賛成。だけど子供はもうちょっと待ったほうがいいな」
「うん、わかってる」
 すぐに子供ができたとして今後どうなっていくか見当がつかない。騎士団に加入している以上、今そんな余裕はなかった。魔法戦争は避けても避けても目の前に迫ってくる。
 ただでさえ人手不足なのだ。一人でも多くの仲間が必要だし、なによりフランクや彼女のような優秀な闇祓いは貴重だった。そこのところは十分理解している。
 アリスは早く平和な世界を取り戻し、子供をつくって、フランクと楽しく穏やかに暮らしたかった。そのためには何もせずに隠れていることはできない。未来の子供たちのためにも自分たちの手で変えていかなければ。だからここにいる、フランクと一緒に。
「でも式は挙げたら? 最近騎士団も暗いし。明るい話題も必要よ。この際だから盛大にやってみんなに祝福してもらおう」
「気が早いわ、リリー。すぐじゃなくていいの」
 これから伴侶としての相手を決めたと互いに認識することが大切なのだった。
「早いに越したことはないよ。ご両親は?」
「喜んでるわ」
「それだったらなんの問題もなしっと」
 矢継ぎ早に質問をしていたリリーは赤い鞄から手帳を取り出しページをめくると、うーんと唸った後に口を開いた。
「来月15日ね、日曜日。1か月後のこの日に結婚式しましょ、私が仕切るわ」
「えぇっ」
「善は急げよ。まかせて、素敵な式にしてみせるから」
 おどけて胸をはるリリーにアリスは頬をゆるめた。この友人は明るくて行動的で、似ても似つかないところが互いをひきつけるのか二人はとても仲が良かった。
「うふふ、嬉しいわ。でもごめんなさい、リリー。お式は無理よ、フランクはロングボトム家でしょう、いろいろしきたりがあるはずだもの」
 途端にリリーの眉間にシワが寄り、口元がひきつる。
「うわぁあ、面倒。あそこのおばさん、怖いし。あの人を本部で見かけたら絶対近づかないようにしてるの、私」
「あら、リリーにも苦手な人がいるのね」
「まぁね。フランクは真面目だから、きちんとしたいだろうなぁ。名門の跡取りとして育てられてきたってよくわかるもの。シリウスのバカとは違うわ」
「もう、リリーったら」
 リリーは行儀悪くテーブルに肘をつき、アリスを指差しながら諭すように言った。
「アリス、これは大げさに言ってるんじゃないの。あのブラック家は魔法界のガンだけどシリウス自身はイボくらいでそんなに悪くはないわ。でも致命的にバカなのよ」
「魔法力は素晴らしいけど」
「魔法使いとしては優秀ですとも。でもね、二十歳にもなって『パスタが食べたい』って、夜中にリーマスを叩き起こすのよ? それもベッドの上に正確に姿あらわししたっていうから救いようがないわ。常識っていうものが欠落してんのよ」
「そんなこと言ったら・・・・・・昔から変わってないわ、シリウスは」
 アリスはフォローしたつもりなのだろうがフォローになっていない。
「だから昔からバカなのよ。リーマスが怒らないからっていい気になって。そのうち誰からも相手にされなくなるんだから」
作品名:冬の旅 作家名:かける