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冬の旅

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「セブルス・スネイプ。黒瞳黒髪のびっくりするくらい物静かな男よ」
「ジェームズに頼んでみよう・・・・・・あれ」
 アリスは首を傾げた。
「ん?」
「ねぇ、最近ジェームズを見てないわ。今週も先週もなんて変じゃない?」
「ああ、そうね。快適すぎて忘れてた。でも単に私たちが見てないだけかも」
「こんなこと初めて。ジェームズっていつも本部にいる気がするもの」
「そうねぇ。珍しいか、な」
「フランクにも聞いてみるわ。どこかに行っているのかしら」
「騎士団がらみかもね」
 二人はそう結論付けると世間話にもどった。あまり長く騎士団の話をするのは身の安全を守るためにも避けなければならないことだった。大事なことを話すつもりはないが、偶然耳に入った言葉尻だけを取られ、妙な噂が出回らないとも限らない。
「クリーミーホワイト」もそろそろ閉店するのではないかということで、最近は少し賑わっているがそのうち人々の出足もにぶり、本当に閉店してしまうだろう。
 リリーとアリスは老舗茶葉店アダム&スミスのドアボーイがかわったことを話しながら、二人ともが子供を産むべきではないと即断したことについて、魔法界がおかれている状況は確実に悪い方向に進んでいるのだと改めて認識し、やりきれない気持ちになった。



 騎士団本部の扉を蹴っ飛ばして入ってきたシリウスにリリーは目を見張った。相変わらず真っ黒な姿は野性味たっぷりで動物というより獣という言葉が頭に浮かぶ。金髪で優しげな風貌のリーマスと並ぶとそれが余計に目立った。半袖から覗く筋肉質の腕が妙に男くさい。
 相当に機嫌が悪いらしく目に付くものを片っ端から蹴っ飛ばして歩いてくる。
 あれ、誰が片付けんのよといまいましく思いながら見ていると、続いて入ってきたリーマスが何かを囁きながらシリウスをなだめていた。が、あの様子じゃろくに耳に入ってない。リーマスも毎回毎回ご苦労様なことだわ。
 大テーブルの椅子をひっくり返すような勢いでひき、ほとんど背を向けるようにしてドスンと腰かけたシリウスは「けっ」とあからさまに不満を表した。
「どうしたの」
 リリーはリーマスに聞いた。どうせシリウスに聞いても返事は返ってこない。シリウスの背後に立っていたリーマスは軽く頭を振りながらため息をついた。
「ジェームズが」
 リーマスの言葉は力任せにテーブルを叩いたシリウスによってさえぎられた。
「狂ってるぜ、あいつっ」
 思いのほか荒々しい口調にリリーはリーマスに目をやったが口を開こうとせず顔をしかめるだけだった。
「俺は最初っから反対だったんだ。ろくな奴じゃない。ジェームズもジェームズだ、ふぬけやがって」
 騎士団の財政帳簿をつけていたリリーはペンをおき、「座ったら」と立ったままのリーマスに声をかけた。
「ジェームズがどうかした? あの人、どこか行ってるの? 連絡がとれないんだけど」
 アリスの結婚パーティの件で相談しようと家を訪ねても留守にしており、応対に出た母親は騎士団本部にいるんじゃないのと何も知らなかった。帰ってきたら知らせて欲しいと言付けておいたがあれから1週間が過ぎても連絡はなく、本部に姿も見せていなかった。
 シリウスはリリーに怖いほどにすわった目をやってなげやりに答えた。
「ヤツは家にいるぜ、おかしくなってな。ふらふら出歩いてんだ。どこ行ってるかわかるか?」
「さぁ」
 シリウスの勢いに気おされ、リリーは思わず身体を引いた。
「ラビリンスだぜ? あの酒場に昼真っからおしかけてんだ。毎日、毎日な!!」
「えっ?」
 咄嗟にリーマスを見ると困ったように頷いた。
「どういうこと?」
「狂ってんだよ」
 またしてもドンとテーブルを叩き、シリウスは黙ってしまった。話す気はないらしい。
「リーマス、どういうことなの?」
 リリーが身を乗り出すようにして尋ねると、シリウスの肩を気遣うように優しくたたいてからリーマスは口をひらいた。
「すごい荒れようだよ、ジェームズは。シリウスが狂ってるっていうのもあながち嘘じゃないくらいだ。目がぎらぎらしてる」
「何があったの?」
「う、ん。まぁジェームズが言いたがらないんだ」
 リーマスは言いにくそうにしてリリーから目をそらした。
「ラビリンスに行ってることを知ってるんだったら何か聞いてるでしょう? なにスタンドプレーをしてるのよ、あのバカは」
「いや・・・・・そういうことじゃ、ない」
 相変わらず歯切れが悪いリーマスにシリウスは嘲るように醜く笑った。
「言ってやれよ。どうせすぐにバレることなんだ。あいつがどんだけイカレてっかな」
「シリウス・・・」
 シリウスは肩にのっていたリーマスの手を荒々しく払いのけた。それを見ていたリリーと目が合ったリーマスは気まずそうに目を伏せ、小さな声で言った。
「スネイプがいなくなったんだ」
「セブが?」
「その呼び方をやめろっ!」
 部屋に響くほどのシリウスの不機嫌な怒鳴り声にリリーは顔をしかめた。
 交流があるわけでもないのに、シリウスは昔からスネイプのことを良く思っていない。自分のファミリーネームと同じくらい『マルフォイ』そのものを嫌っているため、ルシウスの影がいつも見え隠れしているスネイプに嫌悪感を抱いているようだった。
「3週間ほど前からいないらしい。アパートにも帰っていないって。ジェームズが探しているんだよ」
「それでなんでラビリンスなの」
「何ヶ月か前にスネイプを見かけたって誰かが言ってたの覚えてる?」
「あぁ、そんな話もあったわね。バカみたい、ジェームズも全然気にしてなかったはずよ」
 リリーは水差しを取り、コップに水を注いだ。話をうながしながらリーマスとシリウスの前にコップを置く。
「ありがとう」
 手を伸ばした時、リーマスはテーブルの上に飲みかけのコップが2つあることに気づいた。
「誰かいるの?」
「プルウェットたち。兄弟二人来たんだけどフェービアンが軽い熱中症みたい。二階で横になってる。ギデオンがついてるわ」
「外はフライパンの上みたいに暑いからね、気をつけないと。ね、シリウス」
 話を聞いているのかいないのか、シリウスは面倒くさそうに「ああ」と言った。シリウスはリーマスにはどんな状況でも返事だけはする。
 水で喉を潤し、リーマスは話を続けた。
「一月ほど前、ジェームズが浮かれてたよね」
 確かめるようにリリーを見るので、軽く頷いて知っていると伝えた。
「セ・・・・・・同棲ごっこでしょ」
 とうとう背を向けてしまったシリウスを横目で睨んで、リリーは自分のコップにも水を注いだ。ついでにスライスレモンを落とす。リーマスに視線でいるかと尋ねると緩く首を振った。
「意外だと思うかもしれないけど、ジェームズはスネイプのことに関してはあまり話をしないんだ。僕らだって何から何まで相手のことを知らなければ友達でいられないとか、そんな馬鹿なことを考えてるわけじゃない。だからおおまかなことしかわからないんだ。聞いてはみたけど、なかなかね・・・」
 一瞬、途方に暮れた表情を見せたリーマスの心中も、もしかしたらシリウスに負けないくらい穏やかではないのかもしれない。
作品名:冬の旅 作家名:かける