二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

冬の旅

INDEX|16ページ/75ページ|

次のページ前のページ
 

「ジェームズは・・・スネイプに疎開させようとして家を探していたけどそのことをスネイプに話してなかったんだ。たぶん反対されると思ったんじゃないかな。スネイプも仕事を持ってたし、仕事場に毎日姿くらまししてたら体力的につらいことはジェームズにもわかってたんだと思う。遊びに行くふりしてスネイプを連れ出すことにしたんだ。言葉は悪いけど行ったらそのままゴドリックの谷に足止めすることにしてた。強引なところはジェームズらしいって言えばジェームズらしいよ。それで出かける当日、よくあることだけど騎士団のミーティングが長引いて約束の時間にずいぶん遅れたらしいんだ。訪ねたときにはスネイプは家にいなくて・・・・・・それから3週間消えたままだ」
 コップ半分ほどの水を一気に飲んだリーマスの額は大粒の汗が浮かんでいた。シリウスの背中も汗に濡れている。
 リリーは立ち上がるとチェストの一番上からハンドタオルを取り出した。リーマスに手渡し、シリウスに投げつける。背中を向けているのが悪い。
 しかし落ちたハンドタオルを拾ったのはリーマスだった。リーマスがシリウスの首筋をふいている間、シリウスはじっとしていた。
「どうしたのかしら。セ・・・スネイプに頼れるような親族はいないはずだし、まず姿を消す理由がないわ。それで噂を思い出してラビリンスに行ったっていうの? ちょっと短絡的すぎない?」
 リリーの指摘ももっともだった。よりによって『ラビリンス』とは。
「う、ん。それが手紙というか書置きというかそういうものがあったんだって」
「なんて?」
「そこはわからない。話す気のないジェームズからこれだけ聞き出すのも大変だったんだよ。無理に聞けなかった、すぐに黙ってしまうんだ。たぶんラビリンスを思い出させるようなことが書いてあったんだと思う」
 どこから、何から、どういうふうに考えていいのかリリーにはわからなかった。セブがいなくなるなんて考えもしなかった。でも本当にいなくなったんだろうか。
 騎士団に入っていないことはもちろん、協力者としての登録もない。ということは身を隠さなくてもその他の魔法使いたちと危険値は同等だ。ひっそりと地味に、質素に暮らしているものだと思っていた。
 ここ数年、話をしていないのに頭が真っ白になるくらい動揺していることが自分でも不思議だった。
「それでジェームズは?」
「荒んでるって言葉がぴったりだ。心配しすぎて本当におかしくなってる。想像だけど、たぶんスネイプはジェームズに黙ってどこかに行くことがなかったんじゃないかな。たとえば文房具店とかパン屋とかちょっとしたところでも言って出てたんだと思う。ホグワーツからのことを思えば簡単に友達ができそうでもないし、どこかに行くにしても一人っていう選択肢を除いたらジェームズ以外の名前は出ないと思うよ。それに・・・スネイプはジェームズにかなり束縛されていた」
「でしょうね」
「知ってた?」
 リーマスの茶色い目を見て、リリーは頷いた。
「ジェームズはリーマスたちにスネイプの話をしなかったかもしれないけど、その分私とは嫌になるくらい話してた。知ってると思うけどあの子と私、幼馴染なの。あれこれよく聞かれたし、聞かされた。今思えばノロケばっかで大事なことは何一つなかったけどね。話していればわかるわ、ジェームズがどれだけ独占欲が強いか」
 大きくため息をついて、リリーは椅子の背にもたれ、頭の後ろで手を組んだ。
「でもあの二人はうまくいってた。どちらも自分が束縛しているとか、されているとかわかってなかったし。仕方ない部分もあるのよ。私は二人の関係をどうこう言う気はないわ」
 ジェームズの独占欲たるや、それは目をみはるほどだった。はっきりと口に出しはしなかったが、態度や視線、口調は迫力をもってそれをリリーに理解させた。
 リリーにはスネイプに負い目があった。確かにスネイプはリリーに暴言を吐いたが、それは売り言葉に買い言葉的な要素をはらんでいたし、それが本心ではないとわかっていた。口にしてしまった後のスネイプの表情からも明らかだった。後悔以上にこの世が終わったような絶望感をたたえた目をリリーは見ていた。
 何の意地を張っていたのか謝罪を受け入れなかったことは二人に決定的な溝を作り、以後リリーはスネイプを捨てたも同然にあのときから言葉を交わしていなかった。
 アリスにはジェームズが会わせてくれないというように話したが、実際にはリリーが会うのを避けていた。どれほど自分を慕っていたか知っていたのに、ひとりぼっちのスネイプに背を向けたことは忘れたくても忘れられないことだった。
 友人に囲まれ充実した学生生活を送りながら、ふとしたときに思い出す幼馴染の顔はいつも不幸が張り付いていた。その暗闇にのみこまれまいと目をそむけ続ける自分の意地の悪さが恐ろしかった。
 ジェームズがスネイプと付き合いだしたと知ったとき、リリーは身勝手にもほっとした。暗い幼年時代を過ごしたスネイプをさらに傷つけたことに対する罪悪感はどんなに逃げても背中にべっとりと張り付いて離れることがなかった。これで少しは楽になれると思った。二人の付き合いはリリーにとっても大きな意味を持った。
 ジェームズの独占欲は身体だけでなく、スネイプのずたずたに引き裂かれた心を少しづつ癒していったはずだ。あらゆるものから背を向けられて生きてきたスネイプにとって、ひたすらに自分を求めてくるジェームズが己のすべてになっただろうことは想像に難くない。それがリリーには理解できた。
「僕はいいとは思わないけど」
 スネイプの過去を知らないリーマスはごく当然のことを口にした。
「いろいろあるのよ」
 ほんとうに、と小さく言ってリリーは水を口に含み、ちらりとリーマスを見て話の続きをうながした。
「リリー、もうひとつ。あまりいい話じゃないんだけど」
「スネイプがいなくなって、ジェームズがおかしくなって、もう十分いい話じゃないわ。なんて言っていいかもわからないし。あぁ、もうどうなってるのかしら」
 肩をすくめたリリーはテーブルに肘をついて、ため息をついた。
「ジェームズが毎日ラビリンスに行ってるのはどうやら本当にスネイプの出入りがあったかららしいんだ」
「なんですって」
 リリーは思わずリーマスを睨みつけた。そんなはずはない。あの子が、セブがそんな大胆なことができるわけがない。人一倍臆病なあの子が!
「黒瞳黒髪の気の弱そうな若い男が春頃から何度か来ていたとマスターが口をすべらしたらしい」
「そんな、そんな男なんていくらでもいるわ、黒瞳黒髪なんて」
「リリー、そういくらでもいる。けど、その男は調剤薬局に勤めてるって言ったって言うんだ」
「なっ・・・・・・」
 唖然としてリリーはリーマスの茶色の瞳を見つめた。目の前が暗くなり、急に部屋の気温が下がったかのように悪寒が背中を走り抜ける。リリーは大きく深呼吸をしてから水を飲んだが気が落ち着くどころか鼓動が痛いほど身体中に響いてあえぐように息をした。
「スネイプが勤めていた薬局、夜の闇横丁に近かったからジェームズが嫌がってたよね」
作品名:冬の旅 作家名:かける