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冬の旅

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「いや、別に。どうしようかと迷っていたところだ」
「何をですか?」
「この人参をお前の皿に入れるかどうか」
「嫌いなんですね」
「いや、別に。お前の顔色が良くないから。人参はビタミン豊富な野菜だ」
「嫌いなんですね」
「いや・・・・・・、お前、欲しいだろう」
 スネイプはこらえきれずに笑い出した。
「あははっ。先輩のスープ皿、人参ばかり残ってる。僕、人参好きですよ。ください、全部。その代わり、グリンピースとかえっこですよ」
「グリンピースは食べるべきだ」
 スネイプの皿の隅にはきれいに避けられたグリンピースが積みあがっていた。
「先輩、これ、わざとじゃないですか? 妙にたくさんあるんですが」
「私も妙にたくさん食べたからわざとではない。入れすぎただけだ」
 ルシウスはせっせと人参をスネイプの皿に移しながら答えた。人参が嫌いなわけではないのは本当だ。だからと言って好きというわけでもない。どうでもいいのだが、素材がよかったのか人参はことのほか甘く仕上がり、舌に優しく身体に良いものを食べているという気にさせた。
 スネイプの食の進みはルシウスが心配していたより格段に良く、グリンピース以外は順調に腹におさまっていくのを気付かれないように確認しつつ、頃合いを見計らってさりげなく人参をフォークに突き刺したのだった。それにポトフはスネイプがいつ起きても良いように毎日作っており、そろそろ飽きてきていたという理由もあった。
 スプーンを使い、嬉々としてグリンピースをルシウスの皿に移すスネイプはベッドで身を起こし唸っていた姿とは程遠く、短時間でどうやって気持ちに折り合いをつけたのか。
 実はルシウスはスネイプが唸っている姿を暫く眺めていた。そうしながら、自分のそばから離れないようにさせなくてはとあらためて思った。
 ジェームズのことを仲間たちに知られたくない。ベラトリックスに知られでもすればひどい扱いを受けることになるだろう。マスターは口にしないだろうが、何が起こってもセブルスを助けはしない。仲間たちに知られるまでは怯える姿を、知られたら知られたで身体も心も傷つく姿を楽しむ気なのだと想像はつく。
 最近のマスターの非道さはさらに拍車がかかってきている。昨日も若い魔女が死んだと本人の口から聞いた。殺したに違いない。
「セブルス」
 人参を食べ切るとさすがにフレンチトーストまでは全部食べられないらしく、手が止まっていたスネイプにルシウスは呼びかけた。
「昨日マスターがいらっしゃった」
「ここにですか?」
「そうだ。聞いておくように言われたんだが、お前の住居についてだ。ここにいてもいいそうだが、どこか心当たりがあるか。好きなところでいい。そのかわり、どこに行こうと居場所は隠そうとするな」
 どうせ隠せやしない、という言葉をルシウスは飲み込んだが、スネイプにはよくわかっていた。それよりもここから離れられるということがありがたかった。海から離れたい、あの蒼い蒼い海から。
「考えておきます。いつまでに返事をしなくてはいけませんか」
「いつでも。それから気はすすまないだろうが、私と一緒に住むことになる」
「え? 先輩と?」
「あの方がおっしゃるのだから我慢してくれ」
「それはかまいませんが。先輩、お屋敷に戻らなくていいんですか」
「いまさらだ。もう数ヶ月、ほとんど戻っていない」
 仲間たちはあの方を尊敬しているが、たまに危ういのもいる。それに目を光らせつつ、事務処理をして、計画をたて、仲間とマスターの間を繋いでいるとあっという間に時間は過ぎ、屋敷に戻る時間などない。
 マスターが連絡事項を必ず自分に話すことについてはある程度の信頼を受けていると思う。他の仲間より扱いもいい。ある程度のことは口を出されないし咎められもしないが、すべては事務的であり、セブルスと一緒にいるときのような、互いの心が見えるような気持ちになることはなかった。
 当初ルシウスは仕える以上、できるだけあの方を理解したいと思っていたが、いまやそれも遠い過去となった。ただ機械的に仕えているにすぎなかったが、だからといってヴォルデモートに魅力を感じないわけでない。緩んだ魔法界を君臨するにふさわしいと思っていた。今でも思っているには思っているが絶対的な思いはルシウスの気づかないところでわずかに亀裂が入り始めていた。
 あの方は人を殺しすぎる。
 最近のルシウスの悩みは次々にヴォルデモートが魔法使いを殺すことだった。何か不始末があったわけでもなく、ただそこにいたからとしか言いようがない。
 今までの忙しさに輪をかけて忙しくなったのは、ヴォルデモートが殺した魔法使いの処理に手間取るからだった。明らかに害をなした者の死体はほうっておいたが、それ以外の死体は打ち捨てておくわけにいかず、かといって死体処理をまかせられる者もいなかった。
 だから、スネイプの面倒をみている今が一番心にも身体にも余裕がある。わずらわしいことからはすべて遠ざかっており、この間他の仲間たちはどうしているのだろうと思えど、自ら何かしようとする気もなかった。
 セブルスとの暮らし、と言ってもたった3日のことでさらにセブルスはベッドにいるだけだったが、ルシウスにとってはいい休養となっていた。それに久しぶりに会ったセブルスは、学生時代と変わらず小さな弟のようで、ルシウスの癒しとなっていた。よく数年も会わずにいられたものだ。
 先輩、と呼びかけられて、いつの間にか物思いにふけっていたルシウスはハッと顔をあげた。
「あぁ、すまない。ぼんやりしていたな」
 心配そうな瞳にわずかに口角をあげてやる。
「お疲れなんじゃないですか。僕の面倒を見てくださったのでしょう?」
「お疲れじゃないから安心しろ」
 ルシウスはスネイプの鼻をきゅっと摘んで言った。学生時代、よくやったなとたぶん二人が思った。やることなすことが懐かしくて、二人の距離は急速に縮まっていた。
「さて、片付けてアイスクリームを食べるか」
「はい! 僕が用意しますよ」
 スネイプは軽やかに腰を浮かせたが、立ち上がったルシウスに肩を押されてソファに座りなおした。スープまできれいになくなったスネイプの皿を引き寄せながらルシウスは言った。
「座っていろ。私がやるから」
 手際よくテーブルの上を片付けると積み重ねた皿をシンクに置き、冷凍庫からアイスクリームのカップを取り出した。つかの間、カップを眺める。らしくないことをしたなと思って苦笑しそうになったとき、「先輩、すごく大きなの買ったんですね」と背後からスネイプの声がした。
 ルシウスが手にしているキャラメルナッツアイスクリームのカップは食べきりサイズではなく、器に分けて食べる1リットルサイズだった。
「座っていろと言っただろう」
 多少気まずく思いながらルシウスはスネイプを軽く睨んだ。
「器くらい出しますし、僕が取り分けますよ。そうしたら、先輩、ナッツを食べなくてもいいでしょう?」
 食器棚からガラスの器を取り出して、スネイプは言った。スプーンの在りかがわからず、一番端の引き出しを開けようとする前にルシウスが3番目の引き出しからスプーンを取り出した。
「あれ、先輩。このアイス、シャトー・ヴォレーヌ?」
作品名:冬の旅 作家名:かける